ストロベリー・バレンタイン
 苺と抹茶の、優しい色。

 季節のフルーツで彩られた、フワフワ生地のパンケーキ。

 樹君が抹茶。私が苺。

 男の子と、はじめてのカフェ。
 しかも相手は3年越しの想い人の、樹君。

 普段通りに出来ず、緊張のあまり呼吸困難を起こしてしまいそう。

 フォークを刺すと、トロッととろける様にその生地が割れた。

「名前の通り、苺が好きなんだね」

 彼に言われ、私はちょっと考えた。

「本物の苺も好きだけど、この薄いピンク色が好きなのかも」

 彼は抹茶のパンケーキを口に運んだ。表情は全然変わらないけど、何だかリラックスしていて幸せそうに見える。

 もしかしたら彼は、甘い物が好きなのかな?

 ここに来たのも、
 初めてじゃ無さそうだったし…。

 あ、そうか。

 もしかしたら昔、樹君には彼女がいて、その人と一緒にここに来た事があるとか…。


 …悲しくなることを、
 私は何故、想像してしまったんだろう。



「いつから俺を好きだったの?…苺」




「…………!」



 …今



 樹君、私の事、
 『苺』って呼んでくれた!


 

 彼はまた、私をじっと見つめている。





「一年の、体育祭の時くらいから」





「…………体育祭?」







「…徒競走で転んで、膝を擦り剥いた時。転び方があまりにも派手だったから、みんなが私を馬鹿にして大爆笑してた中」




「…………」





「樹君、一言だけ声かけてくれて。『医務室の場所、わかる?』って」






「…………ああ、あの時」







「『わかんないか、君は。…こっちにあった』って言って、急に私の前を歩き出して。広くて新しい運動場だったから、医務室の前まで一緒に行ってくれたの」





 私が方向音痴なのを、まるで知っていたみたいに。





「…そんな事、すっかり忘れてた」







「それだけじゃなくて」




 私は全部、打ち明ける事にした。




「落としたプリントを一緒に拾ってくれたり」


 皆からは氷の様に
 冷たい人だと思われていた
 樹君は、本当はとても優しい人。


「私が文化祭実行委員だった時も」


 いじめられそうだった友達に
 いつも、手を差し伸べていた事も知ってる。


「いっぱいいっぱいだった私の仕事を、気づかれない様にこっそり、手伝ってくれてたでしょう。樹君だけが」


 人との距離を取りながら、
 それでも誰かを、気にかけてる人。



「…………」



 その雰囲気は冷たいけれど、
 本当は穏やかで、温かい人。




 私はそんな樹君がずっと、好きだった。




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