。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅵ《シリーズ最新巻♪》・*・。。*・。
彩芽さんは言った通り、事務所の前で待機していた覆面パトに大人しく乗り込むと
「じゃぁまた。連絡するわ」と言って車は立ち去っていった。
オピウムの香りが―――まるで風がさらっていったかのように、遠ざかっていく。
響輔がその覆面パトを目を細めて見送っていて
「彩芽さん……最初からある程度アタリをつけていて、ドクターに近づいたんですかね」
「それしかないだろ。じゃなきゃあの変態と付き合うメリットなんてない。
それだったら、あの二人の妙なよそよそしさも納得できる」
「でも思った以上にドクターから情報を引き出せなかったってことですかね」
「そうだな……ドクターに早く見切りを付けて、龍崎 琢磨と手を組んだ方が手っ取り早いと踏んだんだろ。ホント……ちょこまかとうろつくネズミだぜ」
嫌味たっぷりで言ってやると
「目障りですね」
と響輔も頷き
「だが味方につけといた方が何かと便利だ。スネーク討伐まで」
「そうですね。すぐ龍崎組に帰りましょう。その薬の効果は一週間と言ったからにはできるだけ早い方がいい」と俺の胸ポケットの内側に収まった小瓶を指さし。
「そうだな」
すぐにタクシーを捕まえ、龍崎組に帰る途中―――
俺は考えた。
何かが引っかかる。
イチの名前を出したときのアイツの反応。
―――確かに嗤ってた。
響輔はそれどころじゃなかったんだろう、その一瞬を見ていないだろうが。
普通ならあの場で惚れてる女の名前を出されたら、少なからず動揺する筈だ。
響輔のように―――怒り出してもおかしくない。
―――『ひとは守るものがいると弱くなる』
あの言葉が頭から離れない。