。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅵ《シリーズ最新巻♪》・*・。。*・。
*琢磨Side*
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== 琢磨Side==
『どこにも行かないで』――――か…
『俺ぁ会社だってあるし、どこにも行かねぇよ』と何とか答えたが、それが朔羅の望んでいる言葉じゃないことに思えた。
『行っちゃうような気がする。
ここじゃないどこかへ―――』
朔羅の言葉は漠然としたものだったが、あいつは心のどこかで薄々勘付いているのかもしれない。
俺の“隠し事”に――――
カラン…
ロックグラスの中で氷が琥珀色の液体の中、氷山の一角のように音を立てて溶けだした。
氷はゆっくりと、だが確実に溶けて水になる。
カラン……またも渇いた音がした。
そのときだった。ふいにウィスキーの香りより強い、覚えのある香りが漂ってきた。
オピウム―――…
「ここ、いいかしら」
と、隣のスツールに腰を下した女―――彩芽が、にこやかに笑顔を浮かべ、カウンターの中でグラスを拭いていたバーテンに
「ボンベイサファイア、ロック、ダブルで」
と手慣れた口調で注文し、
「公務中じゃないのか?」と俺は苦笑いでグラスを傾けた。
彩芽は腕を伸ばし背を逸らして伸びをすると
「今日は退社よ。“仕事”は空振り」と苦笑いを俺に向ける。
彩芽のいでたちはいつもの和服ではなく、髪を下ろして濃いグレーのパンツスーツ姿。見慣れない姿だったが妙に板についている。
まぁ、本来の姿がこうであるから、違和感を覚えないワケだろう。
「お腹すいちゃったわ。何か食べようかしら」
「ここは居酒屋じゃない。チーズと生ハムぐらいならあるだろうが?」
そう、俺が指定したのは都内にある、ちょっと高級志向のバー。
「橘くんが来るまで待ってましょうか。勝手にやってると、拗ねるから」と彩芽はどこか悪戯っぽく笑い
「俺のこと呼びました?仲間ハズレなんて寂しいですね」
と背後で彩芽と違った香りが漂ってきて、タチバナが姿を現した。