。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅵ《シリーズ最新巻♪》・*・。。*・。
「今の所、あの兄妹が互いに面識があるのかどうか分からないが、
でもキリは玄蛇の生き残りと言うことは間違いない。裏切る、とは考えにくいが、お前には悪いが、あの女の動向を見張らせてもらうぞ」
と言うと、鴇田はぎこちなく頷いた。
まぁキリの方も、俺に何か仕掛けてくる、と言うことはないだろうが。そうさせないように充分な脅しはかけておいた。
キリがこの会社で働くようになって三年程になるか…会社を立ち上げてすぐに雇った。
因みに秘書はキリで五人目だ。前任者の四人(全員男、カタギ)は何故か一日で逃げ……いや、辞めた。うち三人は精神病院行きだ。
五人目を雇うときは、流石に慎重になった。
仕事が出来るに越したことはないが、それ以上にキモが据わっている人間じゃないと務まらないだろう。鴇田と話し合い、いっとき鴇田の組員を回してもらうよう頼んだが、鴇田組の組員が全員首を縦に振らなかった。
ちっ、軟弱者たちめ。
鴇田にしばらく秘書と事務所の兼任をしてもらっていたが、それでも手が足らずやはり人を雇うことにして面接を開いた。
―――キリの登場ははっきりと覚えている。
殺人的なスケジュールの中、少しだけ作った俺と鴇田で立ちあった面接で、やってきた人間は入るなり腰を抜かしたり、失神したり、逃げ出す者もいた。
何故だ?何故、俺たちを見て腰を抜かす。
いい加減うんざりして、最後の一人を迎えることなく
「もうお開きになさいますか」と隣に座った鴇田が申し出、
「ああ、そうだな」俺も投げやりだった。顔を背け、面談用に並べた長机の上に脚を乗せていると
カっ
細いピンヒールの音が響き、パンツスーツ姿の姿勢の良い女が入ってきた。
「鬼塚 朝霧、と申します」
キリは、どこか自信に溢れていて、口元に勝気な笑顔を浮かべていた。
見るからにカタギには見えない俺たちに物怖じした様子はない。
「悪いが面談は…」と鴇田がキリの履歴書を手にして断りを入れようとしたが、
キリは鴇田の言葉に怯むこともなく、また与えられたパイプ椅子に座ることなく、ヒールを鳴らしてこちらに向かってきた。
「私のその履歴書、虚偽の事項が記載されてます」
キリは鴇田から、あっさり履歴書を抜き取ると、その場で自らビリビリに破いた。
俺も鴇田も予想もしていなかった出来事に、ただ目を開くしかなかった。
キリは両手に乗った紙の残骸を、妖艶な赤い唇でふっと息を吐き、紙の破片は宙に舞った。
「あなた方に虚偽のことを申しましても、きっと簡単に見破られる。
だから最初から素直にお話しますわ。
わたくしの苗字は鬼塚じゃなく
“玄蛇”
本名を『玄蛇 朝霧』と申します」