。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅵ《シリーズ最新巻♪》・*・。。*・。
S――――
Snake
―――玄蛇
玄蛇の名を誰かが語ってあたしを呼び出そうとしている、と一瞬疑ったが、前回玄蛇と話したとき、確かにあたしは『エタニティ』と言う名のカクテルを飲んでいた。その出来事はあたしと玄蛇しか知らない。
きゅっと手の中でカードを握り、少しの間悩んだけれど
「……悪いけど、あたしちょっと用ができたの。服とかはそのままにしておいて」と言い、ルームシューズを脱ぎ、近くに転がっていたシンプルな黒のルブタンに脚を入れる。
「ちょっとyou…!どこへ行く気?」
当然聞かれるよね。
「鴇田から呼び出し。経過報告だけだからすぐに戻ってくる」
と嘘をでっち上げ、シャネルのクラッチバッグを手にして部屋を出ようとして、くるりと振り返った。
「後を尾けないでよ?そんな無粋な真似したら、次のドラマ出ないから」と指さすと、マネージャーは深くため息をつき
「30分だけよ。それ以上かかるなら電話するからね。いい…約束はちゃんと守っ…」
マネージャーの言葉を遮りバタンと扉を閉め、廊下に出ると
はぁ
深いため息が出た。
重い足取りでエレベーターに乗り込み、最上階のバーラウンジに向かうと、窓際の二人席の一つに背の高い男の後ろ姿が目に入った。
前にあたしたちが会話した場所だから間違いない。
後ろ姿だけ見ると、この男が“日本一の殺し屋”なんて思えない。今日はどこにでも居るサラリーマン風を装っていて、ブランデーの入ったグラスを傾けていた。
「こんばんは、って言うべき?」
そっけなく声を掛けると
「今日はアレはやらないよ?『あちらのお客様から』って」
と、玄蛇は前を向いたままいつもの調子で軽口を叩き、あたしは眉間に皺が寄るのが分かった。