。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅵ《シリーズ最新巻♪》・*・。。*・。
あたしは玄蛇が「ここに座ったらどうだい?」と言ってもいないのに、その言葉を待たずとして隣に腰掛けた。
それとほぼ同時に逆三角形のグラスに入った淡いブルーの液体、そしてグラスの淵にオシャレにオレンジの皮とスプレー薔薇が一輪添えてある、カクテルが出てきて
「君がここで飲んでいたものだ、頼んでおいたよ」と玄蛇はいつも通りうっすら笑い、スマートに飲むように促し、
「さっきあんた言ったわよね。あちらのお客様から、ての」
「“あちら”ではなく“こちら”だ。嘘ではない」と玄蛇が口の端で淡い笑みを浮かべる。
「そんなの屁理屈じゃない」
苛立ちながらもそのカクテルのステム(グラスの脚の部分)を持った。
「今更何の用?」とそっけなく言うと
「随分冷たいな。私たちは協力者同士だろう?」と玄蛇はあたしと目を合わせようとせず、前を向いたまま薄く笑う。
あたしも玄蛇と同様、こいつと目を合わせることなく目の前のガラス窓を見てカクテルに一口、口を付けた。
「契約はまだ続いているの?」
気になったことを聞いて
「もちろんさ、一度交わした契約はよほどのことが無い限り、解約にはならない」
と言うことは、鴇田をはじめとする関係者を一気に消すってことは続いているのね。
最初は鴇田のことが憎くて仕方なかった。死んでほしいと願っていた。
けれど、少しの間だけどあいつと時間を共にして、そしてあたしには今―――鴇田以外に絶対に失いたくない人もいる。
どうすれば契約解除ができるのか知りたくて
「よほどのこと?」
「ああ、雇い主の君が死ぬか、実行者の私が死ぬか―――どちらか。それが契約解除の条件だ」
玄蛇は温度の感じられない淡々とした口調で言い、あたしは飲もうとしていたカクテルから慌てて口を離した。毒でも入ってるかもしれない。
「ああ、安心したまえ、“私は”雇い主を裏切る真似はしない」
「何だか含みのある物言いね」目一杯強がってみせたが、思ったより声は弱々しくなった。
「言葉通りだよ。君も同様、私を裏切ると言うのなら―――君を
殺す。
自動的に契約解除だ」
玄蛇は声を低めて、琥珀色をした液体を喉に通し、
あたしの喉がごくりと鳴った。