。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅵ《シリーズ最新巻♪》・*・。。*・。



「会長の意思は分かっていますし、僕は約束したことを守るタチでね。


でも会長の意思を伝える為にわざわざこんな所へ―――?」


大狼は少し含みのある物言いで俺の顔を興味深そうに覗き込んでくる。


「それ以外に何があると言うのだ」


「イっちゃんも朔羅お嬢さんも僕と繋がってる―――あなたこそ


この状況が一番危険だと思っている、違いますか?」


「何が言いたい」


大狼を睨むと


「別に、深い意味はありませんよ。ただ向き合わないと、大切さに気づいたときには手遅れかもしれませんよ、とだけ」


手遅れ……


「向き合うもなにも、お嬢は……」


言いかけてはっとなった。大狼の方も俺の失言に気づいただろう。




「誰も朔羅お嬢さんのことだと―――言ってませんが」




大狼がどこまでも余裕顏で、にやりと笑っている。


俺は思わず勢いよく立ち上がると大狼の胸倉を掴んだ。


「お前か、お前が!あの手紙を送りつけてきたのか!


わざわざ神社から掘り起こして、ご丁寧にも手紙を添えてな!」


俺が怒鳴ると、各々酒を飲んだり談笑したりしていた客たちが何事かこちらを注目するが、俺と目が合うと露骨に顔を逸らす。


「どうする…?ヤバいやつじゃない?警察に…」


とひそひそ噂話をしているが、それでもそれこそ厄介なことになると分かっているのか、誰も行動する者はいない。


「手紙?何の事やら」


と胸倉を掴まれている大狼はやはりどこか余裕で、とぼけるらしい。


知っているくせに。


知っていて、俺をつついて(ひずみ)に入り込もうとしている。


そうはさせるか。


俺は踵を返した。


「どうしたんですか」大狼が不思議そうに目をまばたく。


「帰る。ここはお前の奢りだ。近々大金が舞いこんでくるのだろう?


振り込み主は“T”


商売はうまくいってるみたいだな」


せめてもの嫌味で言ってやると、大狼は軽く肩をすくめた。


「予算を組み立てるのも得意なんです♪」大狼はテーブルに肘を付き、ウォッカのグラスに口を付ける。それをうまそうに一口。


すぐに伝票を手に取るとひらひらとその紙切れを振る。


「ちょうど良かった、僕はまだ飲みたい気分だったのでね、“一人”で」


大狼のグラスの中のウォッカはいつの間にか底が見えてきた。カットされた氷がカラン…と渇いた音を立てた。




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