。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅵ《シリーズ最新巻♪》・*・。。*・。
リビングでオレンジ色の間接照明の光が漏れているのに気づいた。
戒が今まで居たであろう、ソファとセットになってるテーブルの上に飲みかけの赤ワインのグラスと、新聞が乱雑に置きっぱなしになっていた。
そう言えばこの付近の刑務所から服役中の男が脱走した、と言うニュースを聞いたばかりだ。
賊だったら簡単に倒すことができるが、何せここにはリコやエリナ……イチが居る。
「でも……どうしてあたしだって分かったの?」目を上げて聞くと
「桜の香りがしたから。
俺の大好きなCherryBlossom」
戒はゆっくりと口角を上げ、淡い微笑を浮かべる。
その笑顔にドキリと胸が鳴った。
それを考えると、尚さらあたしが戒を賊と間違えたことを恥ずかしく思う。
今度はあたしの方がわざとらしく話題を変え
「戒……今までここにいたの?てか、お前、そんなんも飲むんかよ」
あたしは呆れた。
17歳だろ。
しかも、お洒落に湾曲したカーブの白い灰皿にはタバコが一本、その先から煙が漂っている。
お前……マフィアのドンみたいだよ。
「お前も眠れないクチ?あ、もしかしてあたしら煩かった?」
あたしたち女子チームの隣の部屋は戒の部屋だ。
あたしはワインのことをスルーして、何となく戒の隣に腰掛けると
「いや?多少煩くても寝れるから俺」
まぁ?確かに…前に聞いたけどこいつはパチンコ屋でも眠れるみてぇだしな。
「大人数とは言えお前と初めての旅行だろ?ガラにもなく気が高ぶってるのかも」
と、戒はイシシと笑う。
え…
「何か…一分一秒でも惜しい気がして」
戒はあたしの方をそっと撫でると、またさっき見た切なそうなまなざしを向けてきて
何か……『一分一秒でも惜しい』って、理由が単に旅行だけじゃない気がするのは気のせいだろうか。
「あ!あたしも!すっげぇ楽しみにしてたし、大人数とは言え戒と旅行嬉しいし。
しかも初めての女子同士のお泊り会だし」
いつになく素直に言って…何となく背筋を伸ばして慌てて言うと、戒はどこか満足そうに口元に微笑を浮かべて、前置きもなくきゅっとあたしを抱きしめてきた。