。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅵ《シリーズ最新巻♪》・*・。。*・。

二人のツーショット写真も撮れたし、スイーツは美味しかったし、あたしは最高に幸せだった。


スイーツを食べ終え、店を出る前「ちょっとトイレ」と言って響輔はトイレに向かって行った。


一人になっても幸せの余韻に浸っていた……けど


夢なら覚めないで欲しい、とあたしは頬杖をついて窓の外緑が生い茂る樹々を見つめた。


ここを離れてしまえば、東京に帰ったらあたしは“you”に戻る。


響輔は変わらずあたしのこと「一結」て呼んでくれるだろうけど、そう言う意味じゃなくて。


気軽に手を繋いで街を歩けない。こうやって何気ないことでも顏を合わせて笑い合えない。


そんな日常が目の前を行ったり来たりしている。


「はぁ……


戻りたくないな」


でもあたしは女優。女優を辞めたくない。だって響輔はあたしはダイヤの原石だって言ってくれた。(。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。参照)


甘い言葉も、甘い態度も響輔は何一つくれないけれど、でもいつも言葉にはちゃんと意味があって、それを守ってくれる。


それだけで充分じゃない。女優と響輔、どっちを諦めるか、なんて


あたしには出来ない。あたしは欲張りだもの。


「て言うか……マネージャー…どうしよう…電話もメールも無視しちゃってるし…絶対今頃怒ってる筈」


別に、いちいち小煩いマネージャーなんか怖かないけど、裏切られた、あたしはイミテーションのダイヤなんだと思うと、ちょっと―――悲しかった。


そんなことをぼんやりと考えてると、響輔は思いのほか早く帰ってきた。


顏をあげると、あたしを「ダイヤの原石」だと言った本人の笑顔があって、手を差し伸べている。


あたしはその手に自分の手を伸ばした。


さっきの夢のように、その手はちゃんと触れ合い温もりを感じた。力強く響輔に引っ張られて立ち上がる。


あたしは―――響輔が誇れる『女優』になりたい。立派に立って、この足でこの手で絶対、幸せを掴む。


「ほな、行こか」と響輔は歩き出す。


そのまま店を出ようと出口に向かって


「ありがとうございました」と店員さんに頭を下げられ


「え??お会計は?」と慌てると


「ここ、俺VIP扱いやから」と響輔はしれっと言う。


「まさかと思うけど…トイレに立ったフリでお会計済ませてきたの?」


「まぁね」と響輔はさらり。


「え?だって結構値段いったよ?」さっきは貢がせる勢いで言っちゃったけど、あんなの本心じゃないし。ちょっと心配になると


「そんなん気にせんででええって」と再びあたしの被ったキャスケットの鍔をちょっと下げる響輔。


響輔……何考えてるか分からないって言ってごめんね。ホントは凄くあたしのこと気遣ってくれて、さりげなくリードしてくれて、スマートにお金払ってくれて。


やっぱあたし……ここに来て何度目かの幸せを感じた。


その“幸せ”て言うのは簡単なことで脆く壊れちゃいそうだけれど、その脆い


この幸せが……いつまでも続くといいな、と言う願いを込めてあたしは響輔の手をきゅっと握った。



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