。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅵ《シリーズ最新巻♪》・*・。。*・。
一通りタチバナとの取引を取り付けると
一ノ瀬の親父はリビングを出て顔だけ廊下に出すと
「おーい、もういいぞー?母さん、何かつまみ作ってくれ~」と大声で言った。
「えー、あなた夕飯食べたでしょう?」と階上から一ノ瀬の母ちゃんの言葉が降ってくる。
だが母ちゃんはああは言ったが、ちゃんと作るつもりなのだろう、片手にエプロンを持っていた。
「龍崎くんはご飯食べてきた?まだだったら一緒にどぉ?千里も呼ぶから」と母ちゃんは俺に優しい。一ノ瀬が降りてこなかった辺り、機嫌悪いんだろうなーって思ったが、そんなことどーでもいい。
「いえ♪もう食べてきました~
お気遣いありがとうございますぅ」
と、コロっと態度を変えた俺に千里の親父が苦笑いで眉をしかめる。
「あらそぉ?じゃぁまた来てね♪琢磨さんの親戚だから大サービスしちゃう♪」と一ノ瀬の母ちゃんはどこまでも明るい。
てか“琢磨さん”て、随分親しげだな。
「琢磨さんとはねー“主婦(夫)友”なの~」うふふ、と母ちゃんは笑う。
主婦(夫)友……
何それ!超ウケる!!!
笑いを堪えるのが大変で俺の口は変な風に曲がった。
「こないだはお父さんの靴選びも付き合ってくれてね~」
聞いてもないのに、母ちゃんは楽しそうに喋ってくれる。
俺はちらりと一ノ瀬の親父を盗み見た。親父の方はむすりとして、ビールに口を付けている。
何か……不釣合いな気がするが、案外いいコンビの夫婦なのかも。
一ノ瀬は良い家庭で育ってんだな。
俺が家を辞去するときに改めて思った。
「また来てね~♪」と母ちゃんは友好的だったが
「琢磨に伝えておけ。倅の躾がなってねぇってな」と親父の方は機嫌が悪い(?)それともあれが通常なのか、人相が悪いからどっちか分かんねぇけど、ま、いっか。
本来の目的は果たせたわけだし。
俺はきっちり頭を下げ、今度こそ一ノ瀬家を後にした。
一ノ瀬家では明るい照明が所々の窓から漏れていて、その温かい色が
ちょっと羨ましくなった。
羨ましいってアレね。
あんな優しくて可愛い母ちゃんを持つ一ノ瀬が!!
うちのおかんと取り換えてほしいわ!!