。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅵ《シリーズ最新巻♪》・*・。。*・。
畑中組に“黒い噂”があることは知っていた。
帳簿に上がってくる数字と、カスリの金額が若干だが差があった。
鴇田から報告があった。その少しの差が穴だ。
ヤクが絡んでいる、裏で何かある―――と踏んでいたが。
タチバナは肩を竦めて
「その女の居所は?」
と短く聞いて俺の背もたれに手をつく。
俺は目だけを上げて、タチバナの次の言葉を待った。
無駄話をしている暇はない。戒が何を企んでるのか分からないが、時間稼ぎならその手には乗らないし、逆探知の恐れだってある。
一ノ瀬のおやっさんからの電話だから、例え逆探知されても大丈夫だが。
敵は単なる業務連絡だと思うだろうが、盗聴されている可能性だってある。
スクランブルをかけてないから傍聴される恐れがあったが、戒だってそこまでバカじゃない筈。
この電話が“安全だ”と思っているに違いない。
その根拠はどこにあるのか分からないが。
『ただで教えると思うか?』
戒がどこか楽しそうに言って、俺はギリギリとデスクの上に爪をたてた。
くそガキが。
大人相手に取引たぁいいご身分だな。
タチバナはちょっと苦笑いを浮かべて口の端に挟んだタバコを抜き取り、煙を吐いた。
『さすがお前の倅なだけあるな。ずる賢い』と言いたげだ。
「無駄話をしてる暇はなくてね―――
こう見えても忙しいんだ」
タチバナは窓枠に腰を降ろし、再びブラインドのスラットの一部分を下げ、外を確認するように目を細めた。
ここは高層ビルの最上階だ。
見張ることは不可能に近い。ライフル銃を持っていたら別だが、戒がそんなもの持ってるとは思えない。
それにもしライフルで狙われても、全面防弾ガラスだ。
戒が出してきた取引内容は、女の身の安全を保証しろ、と言うことでタチバナはその所在を聞いていた。
だが、含みのある物言いから、
まだ何かある―――
そう思い、タチバナの方を目配せ。