。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅵ《シリーズ最新巻♪》・*・。。*・。
*鴇田Side*
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―* 鴇田Side *―
イチが自殺未遂を図ってから一日経った。
たった一日だが、俺にとっては長い……長い―――、一日だった。
特にイチが目を覚ますまでは、まるで無限の世界に囚われたように、底知れない不安と恐怖が押し寄せてきた。それは会長を失う、と言う分かっていながらも止められない運命に対する恐怖とは種類が違う。
―――ただ、虚無感しか感じられなかった。
イチが飲んだ薬は、衛が処方して俺が受け取り、イチに手渡した。こうなると分かっていたら何が何でも阻止しただろうが、後悔したところで遅い。
強いものだから運転は控えるように言って、イチはその言いつけを守ったようだが
まさかあの場で飲むとは思わなかった。イチは何て言うか……親の俺が言うのもなんだが、何に対しても貪欲で、欲しいもは絶対手に入れる性格だ。
色んな意味で強いと思っていたが、
だから自ら死を選ぶ……脆い女だとは欠片も思っていなかった。
イチが倒れたとき、俺はすぐに衛に電話をし衛は救急車を手配してくれたが、到着するまでの応急処置も指示してくれて、その迅速な対応があったからかイチはすぐに薬を吐き出すことができたのだ。
衛に感謝だな。(いつも変人なのに)
その後、救急車で御園医院に運ばれて、さらにきちんとした処置をしてもらったから、体内にほとんど影響が残っていないと言う。
イチが一命を取りとめて、思いのほか大きなため息が出た。
完全に意識が戻って俺は慌てて会長に電話を入れた。すでに衛が会長に連絡をしていた(珍しく機転が利く)みたいだ。大事を取るよう…そして三日程…イチが完全に良くなるまで休暇を言い渡され、その一時間後にはキリも様子を見に来てくれた。
ただイチは鎮静剤の点滴を打っていたから眠ってはいたが、キリも安心したようにほっと息を吐いていた。
キョウスケも駆けつけてきて、言うまでもなく俺が連絡をしたのだが。何故、キョウスケに電話をしたのか分からない。責めるつもりは無かったが、
イチは
望んでいたに違いない。
キョウスケが来てくれることを―――
キョウスケは予想外に俺よりも取り乱した様子で、必死にイチの名前を呼んでいた。
初めて見た。いつもどこか飄々として、感情の起伏をあまり表に出さないキョウスケは虎間やお嬢より早く俺の“隠し事”を見抜いた。
しかし虎間やお嬢にはその事実を伝えていないようで、そこの所の考えが全くと言っていい程分からなかった。
そのキョウスケが酷く取り乱している。
初めて見せる―――それは焦燥の色だった。
イチは―――良い男に愛されてるんだな
そう実感した。