。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅵ《シリーズ最新巻♪》・*・。。*・。
鴇田の事務所に行く手前、家電ショップの店があった。秋葉みたいな大きくて、かつごちゃごちゃした感じではなく、ちょっと古そうで規模も小さい。その店のショーウィンドウに置かれた液晶テレビから、
「今日の為替市場のお知らせです。本日の為替は1ドル107円、昨日より円安ドル高となっています」と、ニュースキャスターが神妙な面持ちでカンペを読み上げている。
この局でこの時間帯に普段は為替情報は流さない。通常なら朝早くだが、その情報を聞いて俺たちは顔を見合わせると、小さく頷きあった。
朔羅は無事“龍崎 琢磨”が連れ出してくれたようだ。
つまり為替情報はウソ。あいつも考えたもんだぜ。鴇田の事務所が近くだからな、電話なんかの通話はスネークに傍受される恐れがある。だからテレビ局を通じて情報を流すことにした。
成功か、失敗か。円とドルの情報で知らせる、と言うわけだ。
鴇田の事務所に向かう際、夜19時の時間、街では人で溢れ返っている。
その人の波の中、幾人かタチバナの部下が何気ない通行人として混じっている。みんな普通を装っているが、“普通”じゃない。目つきで分かった。
警視庁捜査一課の連中だということを。
どうやら、タチバナは俺の約束を守ってくれたようだ。
当のご本人は、姿は見えないが鴇田の事務所から数メートル離れた場所で、スモーク張りにしたSUV車の中で待機しているようで、後部座席からちょっとだけ黒光りする鉄の先が見えた。ちらりと銃身が見えたが
『バレットM82』
セミオート式で操作はそれほど難しくないが、バレル部分が取り外し可能で、通常の弾丸だけでなく炸裂弾なども状況に応じて発射できる。
何より優れているのは、コンクリートで作られた壁を撃ち抜けるほどの脅威の威力があるということだ。
流石にタチバナもこの人の中、ぶっ放すことはできないだろう。俺たちが入っていったのを確認した後、鴇田の事務所に近づく寸法だろう。
“あの”龍崎 琢磨がいっときと言え、手を組んだ相手だ。流石だぜ。
本人と思ってまず間違いがないだろう。
この厳戒態勢の中、スネークは……いや、タイガは変なことができない。
身動きを封じ込めた。