終わったはずの恋だった。
エレベーターが動く音がした。
佐倉研究室が使う研究室は二つ。実験室とその向かいにある休憩室だ。休憩室の隣にエレベーターがあるため、飯田と満生しかいない休憩室ではその音がよく聞こえる。
そろそろかなと満生はコーヒーを飲む。待ちくたびれて込み上げてくる眠気を抑えるためだ。
「ここがうちの研究室が使う休憩室ね」
部屋の外で声がしたと思ったら、ドアが開いた。
「飯ちゃん、池ちゃん。お待たせ。ほら、4人とも入って」
佐倉っちこと佐倉未生(さくらみお)先生に続いて入ってきたのは、黒縁、細縁色々あるものの、全員眼鏡男子。
各々がお邪魔しますやらなんやらごにょごにょ言いながら、頭を下げる。左から二番目に立った男に見覚えがあった満生は、息を呑んだ。
(まさか……うそ。なんで……)
相手も満生を見て目を見開くから、人違いではないんだと満生は顔を強張らせた。佐倉は左の男子から自己紹介させたが、1人目の内容が頭に入ってこない。
「神崎秋(かんざきしゅう)です」
2番目の彼がそう名乗った瞬間、やっぱり、と満生は呆然とした。
新4回生の紹介が終わり、今度は院生の自己紹介になった。飯田のあとに続いて、満生も名乗る。
「四月からM1になります。池原満生です」
礼をして再び顔を上げたあと、バッチリ、目が合った。満生と秋。2人の視線が絡み合う。
この力強い目が好きだったのだと、満生は懐かしいような切ないような気持ちに苛まれた。