終わったはずの恋だった。
***
「みっきだよね?」
空腹を覚えて自販機のおやつを買いに来た満生は突然声を掛けられて飛び上がった。
みっき。
満生のことをそう呼ぶのはただ1人だけ。意を決して振り返ると、そこには先程満生を見つめていた目があった。
新4回生は自己紹介のあと、佐倉に連れられ、研究テーマの話をされていた。今はその帰りなのだろう。
「秋くん……」
名前を呼ぶと彼は嬉しそうに微笑みを浮かべた。
「……元気にしてた?」
「……うん」
「みっきが院生に残るだなんて思わなかったよ」
「……うん」
なんて連絡すればいいのか分からなかったから、結局院に行くことは言えず仕舞いだったと満生は思った。本当は1番に相談したかった。院への推薦が佐倉から打診されたとき、一番に話を聴いて欲しかった。
「これからは後輩として宜しくな」
「うん……」
一年前、満生と秋には誰にも立ち入れない2人だけの世界があった。しかし、今の2人には見えない壁がある。
寂しい。切ない。哀しい。
感情を堪えることを知らない2人の瞳はまるで鏡合わせのように同じ色をしていた。