終わったはずの恋だった。
告白はしなかった。
秋がどういう気持ちで接してくるのか満生には分からなかったし、2人の関係を崩すには余りにも居心地が良すぎた。
『俺、みっきといると楽しくて仕方ない』
『それ私も』
『素のままの自分で居られる』
そしてきっと、そう思っていたのは満生だけではなかったのだと思う。
居心地のいい関係を続け、くっつきも離れもしないまま、2人が出会い1年以上が過ぎた。
大学3回生、冬。ぼちぼち、就活を考えなくてはいけない季節になり、2人は面接講座に出席していた。その帰り道のことだった。
「えー!秋くん、車買ったの!?」
「うん。中古の軽だけど。父に借金したから、もっとバイト頑張らないと」
「すごーい!運転出来るだけでも尊敬するのに!」
満生は夏休みを利用して免許を取ったものの一度車が溝にはまってからトラウマになり運転出来ないようになっていた。今ではれっきとしたペーパードライバーである。
「落ち着いて運転したら、そんなに難しくないよ」
「無理無理!怖いよ。事故でも起こしちゃったら大変じゃん」
たわいもない話をしながら、もう何十回と歩いてきた帰り道を歩く。
握りこぶし一つ分を空けた二人の距離感。
触れそうで触れない指先。
(……触れたい)
一年以上も秘めた満生の想いは今やギリギリの均整を保っていた。
いきなり起こる雪崩のように、何かの拍子に全て崩れ落ちそうで。