お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
 茂木弁護士の事務所は大所帯ではないが、とにかく抱えている事件が多くて忙しい。真帆は所内では一番若い事務員で雑用も多かった。それでも年齢も性別もバラバラな事務員たちとの人間関係も良く、充実した日々だ。
 本音を言えば、転職などしないでこのまま働き続けたいと思っているが後を継ぐ弁護士がいないのだから仕方がない。

「小夜子から次の職場を世話してやってくれと言われとるのだが、真帆にはその気はあるのか」

さすが大企業をまとめ上げる経営者である。一人娘の真帆を溺愛して、少々突っ走る傾向のある小夜子が、本人に断りもなく話をもってきたことくらいはお見通しなのだ。
 真帆は少し迷ってから口を開いた。

「…おじさまにご迷惑でなければ、お話を聞かせて欲しいと思って来ました」

 就職は縁だと思う。
 どんなにスキルに合った職種でも良くない環境では意味がない。真帆は法律事務員として経験は積んだが、他の事務所へ行ってもそこのボスと合わなければそのスキルを発揮することはできないだろう。
 初めは勝手に話を進めた母に戸惑いもしたが、せっかく真帆を心配して持ってきてくれた話なのだから自ら可能性を狭めることはしないでおこうと後から思いなおした。
 真帆の言葉に義雄はなぜか少し安堵したように微笑んだ。
< 10 / 283 >

この作品をシェア

pagetop