お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
 ひとしきり笑ってから、一歩下がって真帆は頭を下げた。

「…今日こそは大丈夫だと思います。ただし、少し暑くなりますからお気をつけて下さい。それでは今日も一日よろしくお願いします」

 そう言って部屋を出ようとした真帆を蓮が呼び止める。

「ちょっと待って」

「はい?」

「今日は私は昼食は社内なんだが…」

 あぁ、と合点して真帆は頷く。
 彼にとっては昼食の時間もビジネスの場である。だから普段は社外で会食というのがほとんどだ。
 けれど確かに今日はなにも入っていない。
 真帆は今日は日中一条が不在にする関係で副社長のランチは手配するようにとあらかじめ言われていた。
 彼が社内でランチをとる時は、重役用に用意されているいくつかの店から出前を頼むか、自分でコンビニへ行くか…。

「出前のリストをお持ちしましょうか?」

「うん…。だが、あれもちょっとな」

 蓮は口元に手を当てて少し考えるそぶりを見せた。
 会食で彼が利用する店は当たり前といえば当たり前だが高級店ばかりで真帆からしてみれば羨ましい限りだが、毎日となると飽きるだろうし胃にも優しくない。
 秘書室で用意している出前のリストも同じような物だった。
 真帆はあることを思いついて口を開いた。

「"ことぶき蕎麦"がざるを始めたかどうか確認しましょうか?」
 
 ことぶき蕎麦は、季節に合った少ないメニューを用意している高級蕎麦屋だ。
 ざるなら胃にも優しいのではないだろうか。
 真帆のささいな気遣いに、蓮がふわりと笑った。

「ありがとう」
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