お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
「社食でエスコートもないでしょう。社員食堂の改装案が出ていたから一度行ってみようと思っただけですよ。入江さんには…秘書としてついてきてもらいました。ただそれだけです」

 蓮は自分でも苦しい言い訳だと思いながら和正に告げる。けれど他に言いようがないのも事実だった。
 彼女と自分の間にあるものは上司と部下の信頼関係、それだけだ。

(今はまだ…)

「お前…」

 和正が白髪まじりの眉を寄せてじーと蓮を見た。

「なんですか」

 蓮は負けじと睨み返す。

「我が息子ながらここまで情けない奴だとは思わなんだ。もしかしてまだ彼女に気持ちを言ってないのか?」

 そう言って和正は蓮のグラスになみなみとウィスキーを注いだ。
< 115 / 283 >

この作品をシェア

pagetop