お見合い夫婦の結婚事情～カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています～

「聞きましたよ！昨日の社食のこと！」

「社食のこと、ですか？」

　真帆は彼女に声のボリュームを落としてほしくて小声で答える。周りの社員がチラチラとこちらを見ていて聞き耳を立てているのがわかったからだ。
　けれどゆかりはそんなことはお構いなしで真帆の肩をガシッと掴んだ。

「副社長の社食デートなんて言われてますよ！」

「まさかっ！」

　真帆は反射的に声をあげてしまい慌てて口を押さえた。けれどこうなったら周りの人に聞こえるくらい大きな声で否定する方がいいかもしれない。変に誤魔化したりしたら、余計に勘ぐられるというのが噂話の常だ。

「あれは、副社長の社員食堂視察に秘書として同行しただけです。デートだなんて言ったら叱られますよ」

　ゆかりはそうなの、と何故か少し残念そうに呟いた。