お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
 もちろん口から出まかせだった。それが良くないことくらいわかっていたけれど、そうする以外に上手に断る方法を真帆は知らない。
 それに。
 さっき知ったばかりの蓮の恋人の存在が真帆の胸をじわじわと傷つけていた。
 手が届かない人とわかっていても、諦めていても、割り切れるわけもない。けれど割り切らなくてはいけないとすれば、自分にも恋人がいることにしておけば都合がいいと思った。
 今朝、真帆と噂になってしまったことを戸惑いの表情で告げた彼は、おそらく自身の恋人に対する申し訳なさも感じていたのだろう。それでも誠実に謝罪の言葉を口にしてくれた。そんな彼の、ほんの少しだったとしても心の負担にはなりたくなかった。
 真帆は自分の心についた傷をえぐるように酷い嘘を口にした。

「おぉ、そうか。いや、当然といえば当然かもしらんな。こんなに可愛らしいんだから!いや、これもセクハラかな?」

 頬の筋肉を意識してあげて、真帆は無理矢理笑顔を作る。そして一歩下がって腰を折った。

「ありがとうございます、常務。…それでは失礼いたします」

 目をあげると射抜くような蓮の視線があった。眉を寄せてまるで責めるように真帆を見ている。
 …もしかしたら、真帆が嘘をついたことくらい彼ならお見通しなのかもしれない。見合い話を断るためとはいえ自社の常務を謀った真帆に腹を立てているのかもしれない。それでもそう思われている方がいい、そう思った。

(他にどうしようもないもの…)

 真帆は心の中で言い訳をして、そそくさと部屋を後にした。
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