お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
「あの…」

 開けておいたままにして下さい、と言いかけて真帆は口をつぐむ。無言のままの蓮の背中がなんだか怖かった。
 彼は真帆が片手でお盆を持てないと知っている。そのためこういう時はドアを開けたままにしておくことも。
 それなのに、なぜわざわざ閉めに行ったのだろう?
 重い沈黙のあと、蓮が振り返った。眉を寄せて、少し薄い茶色い瞳で射抜くように真帆を見ている。
 それだけで真帆の肩がびくりと震えた。
 まるで初めて会ったときのように冷たい目、さらに今はそれ以上に何か得体のしれない恐ろしさを感じた。
 
「…君には恋人がいるのか」

「…え?」

 真帆はかすれた声を漏らす。
 先ほどの石川との話が尾を引いているのだろうということはわかった。
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