お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
 嫌悪感はなかった。
 ただ、そうされてしまえば何かを失うようなそんな気がして真帆は身をよじる。
 けれどいつのまにか腰に回された逞しい腕がそれを許してはくれなかった。
 およそ上司と部下ではあり気ない距離まで近づく彼になんとか思い留まってほしくて真帆は両手で蓮の胸を押すが、オーダーメイドの上質なシャツの下に彼の熱い熱を感じて思わず手を引っ込めた。
 
「だ、だめです…」

 辛うじて口にした言葉は、そのまま蓮の口の中に消えて行った。

「んっ…」

 初めて触れる蓮の唇は、さっきの冷たい視線からは信じられないほどに熱かった。熱くて、そこから自分の全てが溶かされてしまうのではないかと思うほどに。
 けれどそこには愛おしく思い合う者たちが交わし合うものは何一つとして存在しない。怒り、苛立ち、失望、そして憎悪、そのすべての感情が伝わってくるような哀しいキスだった。
 それなのにそんな感情とは裏腹に、真帆の身体は愛しい人に触れられているのだという悦びに震えた。
 唇から注がれる熱が背中に伝わって思わず真帆は仰け反る。それを蓮の大きな手が包んだ。酷い言葉、厳しい表情とは真逆の意外にも優しい彼のその仕草が真帆を混乱させた。

「あ…」
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