お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
「入江さん、この案件まとめておいてくれる?」
声をかけられて真帆はパソコンから目をあげる。差し出された書類を受け取ると法務課からの資料だった。
「…かしこまりました」
真帆が答えると、蓮は来週までに頼むと口の中で言って副社長室へ戻って行った。
そのドアを見つめながら真帆は秘書室の誰にも気づかれないように唇を噛んだ。
あのキスを交わした日から数日が過ぎた。表面上、2人の関係に変りはない。
朝、コーヒーを持って行くときちんとお礼を言われ、業務上必要な言葉を交わす。
蓮は初めの頃のように真帆を邪険にすることはなかったし、あの冷たい目で見ることもなかった。けれどそれが完全な元どおりではないことは明らかだった。
彼が真帆を見つめること自体、なくなってしまったからだ。
シュレッダーゴミを持って行こうとして咎められたことも、会議資料を褒められたことも、社食でアジフライを食べたことも…そしてあのキスも、何もかも彼の中ではなかったことになったようだった。
今、真帆の目に映る彼は、一編の隙もない"藤堂不動産の副社長"で、もう親しげに天気予報を尋ねられることもなければ、冗談を言われることもなかった。
声をかけられて真帆はパソコンから目をあげる。差し出された書類を受け取ると法務課からの資料だった。
「…かしこまりました」
真帆が答えると、蓮は来週までに頼むと口の中で言って副社長室へ戻って行った。
そのドアを見つめながら真帆は秘書室の誰にも気づかれないように唇を噛んだ。
あのキスを交わした日から数日が過ぎた。表面上、2人の関係に変りはない。
朝、コーヒーを持って行くときちんとお礼を言われ、業務上必要な言葉を交わす。
蓮は初めの頃のように真帆を邪険にすることはなかったし、あの冷たい目で見ることもなかった。けれどそれが完全な元どおりではないことは明らかだった。
彼が真帆を見つめること自体、なくなってしまったからだ。
シュレッダーゴミを持って行こうとして咎められたことも、会議資料を褒められたことも、社食でアジフライを食べたことも…そしてあのキスも、何もかも彼の中ではなかったことになったようだった。
今、真帆の目に映る彼は、一編の隙もない"藤堂不動産の副社長"で、もう親しげに天気予報を尋ねられることもなければ、冗談を言われることもなかった。