お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
 父亡き今、母はたった一人の真帆の家族だ。何かあったらどうしようと思うと怖くて涙が溢れた。しっかりしなくてはといくら自分を奮い立たせようとしてもダメだった。
 後から後から流れ出る涙がポタポタと廊下に落ちる。それに気がついた蓮が立ち止まって振り返る。そして一瞬の逡巡のあと、大きな両腕でふわりと真帆を包んだ。

「…しっかりしろ、大丈夫だから」

 大きな手が小さな子供を慰めるように優しく真帆の背中を撫でる。
 何度も、何度も。
 その感触に、真帆の心はわずかだけれど落ち着きを取り戻した。蓮がそう言うなら本当にそんな気がしてくるから不思議だった。

「…行けそうか」

「はい、すみません。泣いたりして…」

「いや、当然だ。気にするな」

 真帆を包んでいた暖かい腕が解かれる濡れた頬を蓮が素手で拭った。

「…行こう」

 再び力強く右手が引かれた。
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