お見合い夫婦の結婚事情～カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています～

「…副社長？」

「いや…そうかもしれないな。俺は睨む癖が、なかなか治らない。…君の話をちゃんと聞かずに、冷静でいられなくなった。しかも、怒りに任せてあんなことを…」

　やや早口に言って、蓮は真帆をまっすぐに見た。
　真帆は車内が薄暗いことに感謝した。
　そうでなければ、あのキスのことを言われて真っ赤になってしまっていることに気づかれてしまっただろう。
　蓮が茶色い瞳を瞬かせた。

「…あんなことをして、申し訳なかった」

　やや苦しげに、けれどはっきりとした言葉で蓮が言う。

「なぜ謝るんですか？」

　心の底から後悔しているとでもいいたげな彼の様子に原因不明の苛立ちを感じて、反射的に真帆は言い返してしまう。
　
「副社長にこそ、恋人がいるからですか？…あれは間違いだったから？」

　畳み掛けるように言ってしまってから、こんな質問は彼を困らせるだけなのにと後悔した。
　でも、どうしても言わずにはいられなかった。
　彼がもしあのキスをなかったことにしたくても、真帆にとっては愛しい人との最初で最後の触れ合いだった。間違いだったかもしれないけれど、彼の口からあの時の気持ちを聞きたかった。
　一方の蓮は、真帆の気迫に少し驚いたように一瞬沈黙したが、ふっと笑みを漏らすと首を振った。

「俺にも、恋人なんていない。ただ、君を怖がらせて無理矢理に触れてしまったことを謝罪しているんだ」

「…え？」