お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
 今度は真帆が沈黙する番だった。あの時確かに石川は、蓮にはもう相手がいるから断られたと言っていたように思う。
 恋人はいないと彼が言うならばあれはいったい…?
 言葉もなく切れ長の茶色い瞳をただ見つめるしかできない真帆に蓮がもう一度謝罪の言葉を口にした。

「…すまなかったあんなことをして。俺の中でどんな理由があったにせよ、君の同意も得ないまま触れるべきじゃなかった。もし、君がどうしても許せないと言うならば…」

「そんなこと、ありません!」

 彼の言葉を遮って真帆は首を振った。

「い、嫌だなんて、思ってません。ただ、どうしてかなぁって分からなくて、混乱はしましたけど…」

 勢い込んで言ってしまってから真帆は頬を染めて俯いた。
 けれど豪胆に見えて意外と生真面目なところもある彼が、真帆に申し訳ないと思っているのがその点だけなら、謝らないでほしいと思った。
 そしてやっぱり、なぜキスをしたのかを知りたいと思った。

「い、嫌じゃないけど、混乱しました…。副社長はなぜ私に…キ、キスをしたんですか」

 俯いたまま真帆は呟くように尋ねる。そのまま答えを待っていると、すっかり熱くなってしまった頬に蓮の手が触れた。
 そして頬にかかる髪を大きな手が優しくかきあげた。

「…君の、恋人に嫉妬したからだ」
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