お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
 大きな乾いた手は、真帆の頬を愉しむようにふにふにと押したり、撫でたりを繰り返す。その感触に誘われるように真帆は自分でもわからないうちに口を開いた。

「でも…」

 言いかけてから、やっぱりと口をつぐむ。なんだかとても恥ずかしい言葉を口走ってしまいそうな気がした。けれどそんな真帆を蓮は許してはくれなかった。

「でも、なに?」

 真帆は頬を染めたまま、無言で首をふる。

「真帆?」

 頬に当てられた蓮の親指が真帆の唇をふにふにと優しく押す。優しいくて、でも逆らえないその感触に、真帆は唇にキュッと力を入れてからもう一度口を開いた。

「でもあんな…あんなキスは初めてでした」

 言葉にした途端、ただでさえ熱い、蓮の手に包まれた真帆の頬が、かぁと温度を上げてゆく。そんなに恥ずかしいなら言わなければいいのにと思う一方で、聞いてほしいと思う自分がいた。
 あんなに全てをとろかされるようなキスは蓮が初めてだったと。
 蓮が真帆を見つめる瞳をわずかに細めて追い討ちをかける。

「…あんなって、どんな?」

 真帆の言いたいことなどお見通しのはずなのに、あえて最後まで言わせようとする彼は優しいフリをした悪魔だ。けれどその茶色い視線に誘われるままに真帆はもう一度口を開く。
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