お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
和正の話
「ははは、こんなに愉快な気分なのは本当に久しぶりだ!」

天井の高いリビングに上機嫌な和正の笑い声が響く。
 昨夜、蓮と口づけを交わしたそのソファに和正が座っているのを真帆は直視できなかった。
 一方で蓮は九十度曲がったソファのもう片方に仏頂面で座っている。
 キッチンには調理器具は何もなかったけれど会社と同じ高級なコーヒーマシンだけはあって真帆はそれで入れたコーヒーを二人の前に置いた。
 そしてそのまま逃げるように部屋を出て行こうとしたが「君もここにいなさい」という和正の声がかかり、仕方なく蓮の隣に腰掛けた。

「…突然の訪問は迷惑です。父さん」

 蓮は、ぶっきらぼうに言って早く帰れと言わんばかりの態度である。
 それには構わず和正は真帆をニコニコとして見た。

「私の悲願を達成してくれた。君には感謝しておるよ、真帆さん」

「い、いえ、そんな…」

真帆はごにょごにょと言って俯いた。
 部屋へ入ってきた和正は、慌てて着替えて迎えた真帆を見て狂喜乱舞した。
 彼が今まで一度も来たことがないという蓮のマンションを日曜の朝から突撃した理由は、蓮と真帆が二人で病院へ向かった日のことが耳に入ったからだという。
 本当はすぐにでも蓮にことの真相を尋ねたかったけれど、以前蓮に言われた"焦ってはまとまるものもまとまりませんよ"という言葉を思いだし、しばらくは静観していたらしい。
 けれどこの週末、珍しく…本当に珍しく、蓮が連休をとっていることを知り、いてもたってもいられなくなったのだ。
 そして電話では逃げられると踏んで、サプライズ訪問となったわけだ。
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