お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
 真帆はなんと答えてよいかわからずにただ曖昧に微笑んだ。
 和正の口ぶりでは、縁談を断った小夜子のことを恨みに思っている様子はない。それはひとまず安心したけれど、申し訳ないという気持ちは拭えない。

「それにしても」

和正がまたうっとりとする。

「これからワシには、二つの楽しみが待っているわけだ。あぁ、ワシは幸せだ」

「二つの楽しみ…?」

蓮が眉を寄せて尋ねると、和正は大きく頷いた。

「お前の結婚式と…」

「結婚?…ちょっと待って下さい、とうさ…」

「それからもう一つ」

 和正は蓮の言葉を遮って、ここが肝心とばかりに身を乗り出した。

「両家の顔合わせだ。…小夜子さんに会える!」

 蓮が深い深いため息をついた。そして首を振って、付き合いきれないと呟いた。
 真帆は和正がさらりと口にした"結婚"の言葉に戸惑いを隠せない。蓮と真帆の出会いがお見合いだったとしたら、当然といえば当然なのかもしれないが、見合いのつもりではなかった真帆からしてみれば展開が速いと言わざるを得ない。
 こっそりと蓮に視線を送ると彼も微妙な表情で真帆を見ている。そして何か言おうと口を開きかけた。
 そのとき。
 ローテーブルに置きっぱなしのままだった真帆の携帯がマナーモードのまま、ムーンムーンと鳴りだした。
 三人の視線が着信を知らせる画面に釘付けになる。
 表示は"母"…小夜子だった。
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