お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
 真帆は頭をぽりぽりと掻きながら母を見た。彼女には真帆の困惑の理由がわからないようで、相変わらずおっとりと首を傾げている。
 母小夜子の実家の小鳥遊家は元々は呉服で財をなした一族で、今は流通から小売まで幅広く事業を展開している。
 母は生粋のお嬢様なのだ。
 そのままゆけばどこぞの御曹司との結婚が待っていたのだが、世間知らずの彼女は当時貧乏学生だった父入江修二と出会い恋に落ちる。そしてほとんど駆け落ち同然で二人は一緒になったという。
 その話は未だ少女のような雰囲気を残す母から、何度も何度も聞かされた。人に言えない苦労もあっただろうに、父の愛だけを頼りに全てを乗り切った母を真帆は尊敬している。
 そして母そのまま実家に頼ることなく、研究員の職を得た父と二人、一人娘の真帆を愛情深く育てあげてくれた。小鳥遊家には遠く及ばない経済力ではあるが、とても幸せな暖かい家庭だった。
 数年前に父が病で亡くなった時は後を追うのではないかと思うほど憔悴した母だったが、日にち薬とはよく言ったもので少しずつ少しずつ元気を取り戻していった。
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