お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
どきりと鳴る胸の音に気付かれないように真帆は頷く。

「はい。三年生の冬に父が亡くなったものですから…経済的な事情で続けることができなくなりました。その時に客員教授をされていた茂木先生に声をかけていただいて先生の事務所に入れて頂いたのです」

 一気に言って真帆は小さく息を吐いた。経済的な事情でなど言わなくてもいいことを言ってしまったかもしれないが、ちゃんと言っておかなければ大学中退をマイナスに取られてしまうかもしれないとも思った。
 しかし真帆の答えに一条は納得した様子はなく、経済的な事情…と呟いて難しい顔をしている。
 小鳥遊家は日本優数の富豪だ。
 その親戚あたる真帆が経済的な事情から大学を中退したなど信じられないのだろう。
 真帆は慌てて付け足した。

「は、母は、若い頃に家の反対を押し切って父と一緒になったので…。小鳥遊の方とは祖父が亡くなってから徐々に付き合うようになったんです…。うちはごくごく普通の家庭でして…」

 話しながら真帆は真っ赤になってしまう。ここまで家庭の事情をここまで話すことになるとは思わなかった。けれどここまで説明して、ようやく一条は納得したようだ。
 眼鏡の奥の切れ長の目が薄く笑った。

「なるほど、よく分かりました。立ち入ったことをお伺いしてしまって申し訳ない。…もちろん口外はしませんのでご安心を。では、業務の内容ですが…」

 一条が業務の説明に入ったので真帆は胸を撫で下ろして彼の話に聞き入った。
 とりあえず第一関門は突破したようだった。
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