お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
 本当は、その袋ごと持ってやりたいと思った。
 彼女がしようとしていることは、正しい。各課ごとの役割はあるものの、互いにそれを踏まえて補い合うように行動すれば、仕事は円滑にまわる。であるならば、今から下の階へ行く蓮が代わりに持ってやるのが、当然のように思える。
 けれど蓮はそれをしなかった。
 今まで意識して彼女と距離をとるようにしていた自分の意地がそうさせなかった。
 今から考えてみれば大人げないことをしたと蓮がため息をついた時、ノックの音がして一条が入ってきた。そして小さなゴミを持ったままの蓮に不思議そうな視線を送った。

「…どうした」

 蓮はそのゴミを払い除けて尋ねる。

「…午後の法務部長との打ち合わせがキャンセルになりました」

一条は、「そうか」と頷く蓮の机にあるコンビニのコーヒーを見て再び動きを止めている。
 蓮は舌打ちをしたくなった。
 勘のいい一条に真帆を避けてコーヒーを買いに行くという大人げない行動を見透かされているようで苦々しく思う。
 けれどふと思いついて口を開いた。
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