優しい三途の川の渡り方
これは一週間ほど前から企てていた計画だ。
本当は、『何でも手に入れられる魔法の紙』を支給されてから事を起こそうと思っていた。
でも案の定、期日を守られることはなかった。
これだけ必死に働いているのに、渡されるそれは満たされるほどの分などない。それでもその紙がないと生きていけないから、すがりつく。
でもわかったんだ。
それは『金』という、なんとも価値ありげな名のついた、ただの『紙切れ』だ。火をつければ、一瞬で灰になる。
生きるためにお金が必要というのが常ならば、死んでしまえばいい。
死ねばもう欲すことは無い。
欲望のために身を削ることもない。
心が死んでしまえば、肉体のために生きる理由なんてなかった。
敢えて思い出す必要もないだろう。何度も作り直した資料の山。理不尽に怒鳴られたこと。終わらない仕事。貰えない残業代。眠れない日々の事など。
だって私は幸せになる。
私を脅かす上司たちのいない世界へ逝く。
これほど楽しみなことはあるだろうか。考えるだけで狂った時計のように踊り出したくなる。