優しい三途の川の渡り方
朝食は手軽に済ませる。銀行の向かいにあったコンビニで、パンとお茶を買った。
陳列台におとなしく座っている、物珍しいパン。まだ先だというのに、ハロウィン限定と札を張られた、カラフルなものだった。
ただの興味本位だった。私には来ないハロウィンを、一足先に味わえる。
ほかに比べて少しだけ値段の高いそれは、それだけ価値があるように思えた。贅沢だ。私は幸せ者だ。
レジにそれらを持っていく。
「最近はイベントに合った商品の出が早いですね」
とんでもなく笑顔で言った気がする。もっとも、営業スマイルに近いが。
客の少ない時間帯のため会話をすることが少ないのか、店員は目を見開いて、「あぁ」と声を漏らす。
「そうなんですよ。まあ、こちらの商品は昨日から発売されたんですがね」
「そうでしたか。いやあ、私今日死ぬので、迎えることのないハロウィン気分が味わえて嬉しいです」
表情は点だった。一間を置き、聞き間違いだと思ったのか、息のような苦笑いをして商品の入った袋を渡してきた。
そして典型的なセリフを吐いて会話が終わる。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
『また』なんて私には来ないよ。
私は終始笑顔だった。
店を出て、すぐそばのベンチに座り、袋の中身を口に運んだ。
「まっず」
イベントの先取りができるのは見た目だけだった。それとも、単に私の口に合わなかったのか、舌の機能が終了したのか。
ペットボトルのお茶で、口内に張り付いた汚い味を流し込む。
ハロウィンなんて、この先生きる人たちで勝手にやってくれ。私はもう死ぬんだから。
ゴミ箱に、空になったものたちを投げ捨てる。そして、トランプケースから取り出したハートの3も、一緒に捨てた。
「見て見ぬふり」
私の下した最初の評価だった。