優しい三途の川の渡り方

それからは早かった。再び担当が変わり、カットしてもらった女性に髪を乾かしてもらって、今度は可愛らしくアレンジをしてもらう。

クルクルと巻かれた髪はトリートメントのお陰か、やや艶めきを増していて、先程掛けてもらった甘い香りは、少し揺れるだけで蝶が飛んできそうだ。

あれだけ酷かった髪が、一瞬にして輝く。カットをして、かつ巻かれた髪は、肩より少し浮くくらいに短くなっている。

更にこめかみの辺りには、小さな花が咲いていた。

「凄いですね!髪の毛で花を作るなんて!」

「いえいえ。普段は後ろの方で大きな一輪を作るのですが、お姉さんは巻いた方が似合うかと。でも、今日は晴れ舞台らしいので、小さくお花を咲かせてみました!」

まるで、何かはわからないけど晴れ舞台だから、と言っているようだ。周りに飛び散る、目に見えない花弁が代弁している。

無かったことにされた。きっとこれが普通の反応だ。

「ありがとうございます。今日一日、楽しみますね!」

今日一日、だけ。

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