消女ラプラス
そこでハッ我に返った彼女に聞いてみる。
「……神様ってあんみつが好きなの?」
見る見る内に、彼女は耳元まで真っ赤になった。
「べ、別にそんなことはありません! あんみつが好きな神様なんて変だもん! 仮にそうだとしても何か文句があるんですか⁉ せっかく日本にいるうちに食べたいと思っちゃいけないんですか⁉」
「そんなことは一言も言ってないけど」
「言ってなくても分かります! 私は未来視の神様ですから!」
「何でも分かるんなら、どうして僕の幻覚の内容は分からなかったの? もしかして神様でも万能じゃないんじゃないの?」
「そ、それは貴方が……って、話の腰を折らないで下さい! 今はあんみつの話をしているんです!」
「やっぱりあんみつが好きなのか?」
「だ、だからそんなことは……って何回同じ話をさせるんですか!」
ゼエゼエと息を切らす『神様』を見て、ちょっと面白いなと思ってしまう。
「……今、ちょっと『面白いな』とか失礼なこと考えませんでしたか?」
「え⁉ やっぱり頭の中のことまで分かるの⁉」
「今のは予知ではありません! 貴方の表情を元にした単純な推測です! さっきから私のことをバカにしてませんか⁉」
頬を膨らませるラプラスを見て流石にマズイ気がしたので、僕は慌てて話題を変えることにする。
「あのさ、一ついいかな? さっきの『日本にいるうちに』ってどういうこと?」
ラプラスはまだ怒っている様子だったが、何回か深呼吸すると落ち着いた口調に戻ってくれた。
「はあ……私は今まで世界中の研究施設でたらい回されてきたんですよ。生まれ持った未来予知の能力を使って実験したり、実際に試験運用する為に。そして半年後に私はアメリカの地下隔離施設に移送される。この日本だけでなく、世界規模の予知を行って全世界を管理するプロジェクトの為に」
「全世界を管理する⁉ そんなのはもう世界征服みたいなものじゃないか」
「そうね。私は世界の運行を担う『核』となるの。もちろんそうなったらもう、外の景色を見ることすら許されない」
ラプラスはゆっくりと立ち上がった。
ふわり、とフリルスカートを優雅に漂わせながら彼女は数歩歩いて、深い青の中で漆黒に浮かぶ星空を見上げる。
「その時私はこの世界から本当の意味で『消える』……ただ使命を果たすだけの機械へ成り果てる。それが私の運命です」
それは穢すことなど許されない絵画の様に美しい姿だったが、僕はどうしても聞かずにはいられなかった。
「逃げたい……って思わないの?」
彼女は深海のクラゲの様にゆっくりと振り向いて、首を傾げて笑った。その拍子にインカムのアンテナが小刻みに揺れる。
「どうしてですか? そこに行けば、私は完全に『消える』ことが出来るんですよ? 神に等しい力を持つ人間が、世俗と隔絶されたより相応しい場所に収まる……これは自然の摂理であり正しいことなんです」
「僕が聞きたいのはそうじゃない」
「え?」
聞き返す彼女に僕は問いかける。
「僕は君自身が『消えたい』のかを聞いてるんです」
「……神様ってあんみつが好きなの?」
見る見る内に、彼女は耳元まで真っ赤になった。
「べ、別にそんなことはありません! あんみつが好きな神様なんて変だもん! 仮にそうだとしても何か文句があるんですか⁉ せっかく日本にいるうちに食べたいと思っちゃいけないんですか⁉」
「そんなことは一言も言ってないけど」
「言ってなくても分かります! 私は未来視の神様ですから!」
「何でも分かるんなら、どうして僕の幻覚の内容は分からなかったの? もしかして神様でも万能じゃないんじゃないの?」
「そ、それは貴方が……って、話の腰を折らないで下さい! 今はあんみつの話をしているんです!」
「やっぱりあんみつが好きなのか?」
「だ、だからそんなことは……って何回同じ話をさせるんですか!」
ゼエゼエと息を切らす『神様』を見て、ちょっと面白いなと思ってしまう。
「……今、ちょっと『面白いな』とか失礼なこと考えませんでしたか?」
「え⁉ やっぱり頭の中のことまで分かるの⁉」
「今のは予知ではありません! 貴方の表情を元にした単純な推測です! さっきから私のことをバカにしてませんか⁉」
頬を膨らませるラプラスを見て流石にマズイ気がしたので、僕は慌てて話題を変えることにする。
「あのさ、一ついいかな? さっきの『日本にいるうちに』ってどういうこと?」
ラプラスはまだ怒っている様子だったが、何回か深呼吸すると落ち着いた口調に戻ってくれた。
「はあ……私は今まで世界中の研究施設でたらい回されてきたんですよ。生まれ持った未来予知の能力を使って実験したり、実際に試験運用する為に。そして半年後に私はアメリカの地下隔離施設に移送される。この日本だけでなく、世界規模の予知を行って全世界を管理するプロジェクトの為に」
「全世界を管理する⁉ そんなのはもう世界征服みたいなものじゃないか」
「そうね。私は世界の運行を担う『核』となるの。もちろんそうなったらもう、外の景色を見ることすら許されない」
ラプラスはゆっくりと立ち上がった。
ふわり、とフリルスカートを優雅に漂わせながら彼女は数歩歩いて、深い青の中で漆黒に浮かぶ星空を見上げる。
「その時私はこの世界から本当の意味で『消える』……ただ使命を果たすだけの機械へ成り果てる。それが私の運命です」
それは穢すことなど許されない絵画の様に美しい姿だったが、僕はどうしても聞かずにはいられなかった。
「逃げたい……って思わないの?」
彼女は深海のクラゲの様にゆっくりと振り向いて、首を傾げて笑った。その拍子にインカムのアンテナが小刻みに揺れる。
「どうしてですか? そこに行けば、私は完全に『消える』ことが出来るんですよ? 神に等しい力を持つ人間が、世俗と隔絶されたより相応しい場所に収まる……これは自然の摂理であり正しいことなんです」
「僕が聞きたいのはそうじゃない」
「え?」
聞き返す彼女に僕は問いかける。
「僕は君自身が『消えたい』のかを聞いてるんです」