消女ラプラス
その後様々な生徒に声をかけたが、誰も僕を怖がって取り合ってもらえなかった。

休み時間、学食にて。

一番隅の席に陣取った僕は、またしても渋々『ライプラリ』を起動する。

メイに事情を説明して時雨さんの近況を探ってもらう為だ。

時雨さんの身に起きたことは学校のポータルサイトでも記事になっていたようで、すぐに状況は把握できた。

「時雨鏡花はご主人様が不登校になってから四日後……ユグド・タワーに行った翌日から三日間連続で不慮の事故に巻き込まれています」



ファンサービスのつもりなのか、ポップなフレームの眼鏡をかけて髪をまとめた委員長モードのメイがデータベースを読み上げる。

「一回目は飲酒運転との衝突事故。二回目は老朽化した非常階段からの転落事故。三回目が工事現場から落下した鉄骨との接触事故です」

「そんなバカな……ありえない」

「そう、『絶対に有り得ないこと』です。昔ならともかく、『ラプラス・システム』が統治している現代においては」



――『事故』という現象は、『ラプラス・システム』が確立してからほぼこの日本から消滅した。

なぜなら『ライプラリ』が事故の発生予知を当事者たちに通達し、事故が起こらない様に未然に解決策を提示してくれるからだ。

例えば『鉄骨が落ちて被害が出る』ことが確定した時点で現場責任者に『ライプラリ』から連絡が入るし、非常階段も危険なレベルまで老朽化する前に学校に警告が行く。

よってライプラリを所持していなかったり、『魔女』の様にそもそも予知が通用しない人間を除けば、不慮の事故や事件に巻き込まれる可能性は限りなく低い。

交通事故にあって亡くなったり、突然病気が発症して余命一年を宣告される……何てことはもはやドラマやアニメの中だけの話なのだ。

そして日本有数の財閥の令嬢が、ライプラリの予知を疎かにするなんてことは有り得ない。だとすれば考えられるのは――

「『ライプラリ』が――いや、『神様』が意図的に時雨さんに『予知』を通達しなかった……?」



僕がユグド・タワーに行った翌日から時雨さんの連続事故は始まった。

だとしたら、僕がラプラスに接触したことと時雨さんが半死半生の目に会っていることは何か関係があるかもしれない。

「行かなくちゃ……もう一度『ユグド・タワー』に」



メイが疑問符を浮かべる。

「ご主人様、余裕のない男はモテないですよ? 愛しの神様に会いたい気持ちは分かりますが――」

「違うよ! 僕のせいで時雨さんが死にかけているかもしれないんだよ!」



僕が食って掛かると、メイはため息を吐いて相変わらず偉そうな仕草で首を振る。

「それは自意識過剰ですよ。まさか時雨鏡花が、ご主人様をいじめに合わせていることを『神様』が見通して、時雨鏡花に天罰を下している……とでも言うつもりですか?」

「可能性はあるよ。僕がラプラスと会ったタイミングとも一致してるし」

「いいえ、何度も言いますがそれは有り得ません。日本を統治している『神様』からすればご主人様は虫ケラのフンにたかる微生物のフンにも劣る存在なんですよ?」

「微生物のフンって」

「そもそも時雨鏡花は貴方を不登校に追いやった張本人ですよ? なぜ貴方がそこまでしてあげる必要があるんですか?」

「それは――」



正論を突き付けられ、一瞬言葉に詰まる。

彼女の言う通りだ。なぜ僕は、そこまでして未だに時雨さんを助けようとするのか。

しかしその答えが出る前に、



「あの……席、ご一緒してもよろしいかしら?」
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