消女ラプラス
ユグド・タワーは四日前と同じく通常通り運営していた。
真昼間にブレザー姿で入館しようものなら確実に警備員に止められるので、一応時雨さんに変装を用意してもらっていた。
体形の分かりづらいダボダボのセーターとジーパンにネックウォーマー。サングラスにニット帽とお世辞にも洒落た変装とは言えなかったが、受付の人は特に怪しむ様子もなくスルー。
不思議なくらいスムーズに入館した僕はトイレで暑苦しい変装を脱いで制服に戻り、人気のないタイミングでエレベーターに乗り込む。
だが中には中年職員の先客がいて、僕を見るなり驚いた声を上げた。
「お前……始か? どうしてこんなところにいるんだ? 学校はどうした?」
そこにいたのは実の父親――夕立賢一(ゆうだち けんいち)だった。
最悪だ……こんな時に限って父親と鉢合わせるなんて。
「ちょっと用事があってさ。別に父さんとは関係ないでしょ」
質実剛健の仕事人間で、ネグレクト気味の父親とは基本的に仲が悪い。
だから咄嗟にぶっきらぼうな口調で誤魔化そうとしたが、流石にそうはいかない。
「関係ないわけあるか。お前が学校をサボってどこに行こうが勝手だが、ここは俺の職場だ。見過ごせば俺の責任問題になる」
責任問題、ね……。
父さんの頭の中にあるのは仕事と保身のことだけだ。
息子が今どんな状況にいるのかなんて微塵も興味はない。
だったらその不安要素を取り除いてやる。
「ごめん、冗談だよ。実は父さんに用があって来たんだ」
咄嗟に思い出した案を実行すべく、僕はポケットに手を突っ込む。
今までずっと持ち歩いていて良かった。これを使えば父さんなんて――
「何だ、わざわざ俺に会いに来たのか?」
そう言って覗き込む父親の顔目がめて僕は――素早くポケットから薄い長方形の物体を突き出した。
――父親から盗み出したカードキーを。
「父さん。これ仕事に必要なものでしょ?」
真昼間にブレザー姿で入館しようものなら確実に警備員に止められるので、一応時雨さんに変装を用意してもらっていた。
体形の分かりづらいダボダボのセーターとジーパンにネックウォーマー。サングラスにニット帽とお世辞にも洒落た変装とは言えなかったが、受付の人は特に怪しむ様子もなくスルー。
不思議なくらいスムーズに入館した僕はトイレで暑苦しい変装を脱いで制服に戻り、人気のないタイミングでエレベーターに乗り込む。
だが中には中年職員の先客がいて、僕を見るなり驚いた声を上げた。
「お前……始か? どうしてこんなところにいるんだ? 学校はどうした?」
そこにいたのは実の父親――夕立賢一(ゆうだち けんいち)だった。
最悪だ……こんな時に限って父親と鉢合わせるなんて。
「ちょっと用事があってさ。別に父さんとは関係ないでしょ」
質実剛健の仕事人間で、ネグレクト気味の父親とは基本的に仲が悪い。
だから咄嗟にぶっきらぼうな口調で誤魔化そうとしたが、流石にそうはいかない。
「関係ないわけあるか。お前が学校をサボってどこに行こうが勝手だが、ここは俺の職場だ。見過ごせば俺の責任問題になる」
責任問題、ね……。
父さんの頭の中にあるのは仕事と保身のことだけだ。
息子が今どんな状況にいるのかなんて微塵も興味はない。
だったらその不安要素を取り除いてやる。
「ごめん、冗談だよ。実は父さんに用があって来たんだ」
咄嗟に思い出した案を実行すべく、僕はポケットに手を突っ込む。
今までずっと持ち歩いていて良かった。これを使えば父さんなんて――
「何だ、わざわざ俺に会いに来たのか?」
そう言って覗き込む父親の顔目がめて僕は――素早くポケットから薄い長方形の物体を突き出した。
――父親から盗み出したカードキーを。
「父さん。これ仕事に必要なものでしょ?」