消女ラプラス
ラプラスはその質問に一度顔をそむけ、それから僕の手足に手をかざした。
途端リングが手足から抜け落ちて足元に転がり、僕は床に尻もちをつく。
「いったあああ! 急に何するの⁉」
「そんな姿の君をもう見たくないから。いえずっと前から……『魔女』として虐げられ、十字架を背負わされる君の姿を見て私は心が痛かった」
「……別に、『魔女』は僕以外にもたくさんいるじゃないか」
「いいえ貴方は特別。貴方だけは今まで何度も『糸』に触れた。『神様』である私にしか操ることを許されなかった運命の糸に。一番最近で言えば時雨鏡花への告白。私が成功率は0%だと伝えたのに、貴方は告白を実行した。普通の人間はもちろん、『魔女』ですらそんなことはしない」
ラプラスは僕の眼前まで近づいてきた。
「だから私は貴方に興味を持ったの。そしてこのタワーに貴方がやって来る予知が見えた時、凄く嬉しかった。でもあえて貴方を知らないフリをした。『神様』という超常的な存在を見た時貴方はどんな行動を起こすのか、その自然な反応が見たかったから」
「そういうことだったのか。でも残念だけど、今はあの時の約束をすぐに果たせそうにない」
そう言って拳を握りしめる僕に、彼女は小首を傾げた。
「今は? ……ああ、時雨鏡花のことね」
「そうだ。五月雨に何と言われようが、僕は時雨さんを殺す気はないし殺させるわけにもいかない」
「ねえ、貴方にとって時雨鏡花はどんな存在なの?」
唐突な質問に、僕は迷いながら答える。
「どんなって言われても……ちょっと前までは好きだったけど、今はただのクラスメートだよ」
「ただのクラスメート、ね……あんなに酷いイジメを受けたのに」
「今はもう気にしてないよ。彼女も辛い目にあったんだし」
「それで済む話かな? 時雨鏡花のせいで貴方は一度自殺まで考えたんでしょう?」
「…………」
思わず黙り込む僕をラプラスはジッと見つめて……それから急におかしくなったように笑い出した。
「ごめんごめん、意地悪な質問だったね。……それにしても私が貴方の為に時雨鏡花を殺そうとしたと勘違いするなんて。貴方っていわゆるチョロいタイプ?」
「う、うるさいなあ! その話はもういいでしょ!」
「分かった分かった。でも、これだけは聞かせて」
クスクスと笑みを浮かべてから、ラプラスは不意に暗闇から僕を覗き込む。
「過去のいざこざを抜きにしても、始君はどうしてそこまで彼女を庇うの? 『システム』が社会に害をもたらす存在とまで断定したのに」
「だからこそだよ。『システム』に勝手に存在意義を判断されて、まだ何もしてない人間が抹殺されるなんて見過ごせない」
「でも、それはみんなが気づいていないだけで日常的に行われていることなんだよ? 君は『天使』だからたまたま『歌姫』を倒せてしまったけど、本来なら不穏分子は私の予知を元に隠密に排除される。それがこの世界の当たり前の仕組みなの」
僕は、彼女の顔を静かに見つめた。
途端リングが手足から抜け落ちて足元に転がり、僕は床に尻もちをつく。
「いったあああ! 急に何するの⁉」
「そんな姿の君をもう見たくないから。いえずっと前から……『魔女』として虐げられ、十字架を背負わされる君の姿を見て私は心が痛かった」
「……別に、『魔女』は僕以外にもたくさんいるじゃないか」
「いいえ貴方は特別。貴方だけは今まで何度も『糸』に触れた。『神様』である私にしか操ることを許されなかった運命の糸に。一番最近で言えば時雨鏡花への告白。私が成功率は0%だと伝えたのに、貴方は告白を実行した。普通の人間はもちろん、『魔女』ですらそんなことはしない」
ラプラスは僕の眼前まで近づいてきた。
「だから私は貴方に興味を持ったの。そしてこのタワーに貴方がやって来る予知が見えた時、凄く嬉しかった。でもあえて貴方を知らないフリをした。『神様』という超常的な存在を見た時貴方はどんな行動を起こすのか、その自然な反応が見たかったから」
「そういうことだったのか。でも残念だけど、今はあの時の約束をすぐに果たせそうにない」
そう言って拳を握りしめる僕に、彼女は小首を傾げた。
「今は? ……ああ、時雨鏡花のことね」
「そうだ。五月雨に何と言われようが、僕は時雨さんを殺す気はないし殺させるわけにもいかない」
「ねえ、貴方にとって時雨鏡花はどんな存在なの?」
唐突な質問に、僕は迷いながら答える。
「どんなって言われても……ちょっと前までは好きだったけど、今はただのクラスメートだよ」
「ただのクラスメート、ね……あんなに酷いイジメを受けたのに」
「今はもう気にしてないよ。彼女も辛い目にあったんだし」
「それで済む話かな? 時雨鏡花のせいで貴方は一度自殺まで考えたんでしょう?」
「…………」
思わず黙り込む僕をラプラスはジッと見つめて……それから急におかしくなったように笑い出した。
「ごめんごめん、意地悪な質問だったね。……それにしても私が貴方の為に時雨鏡花を殺そうとしたと勘違いするなんて。貴方っていわゆるチョロいタイプ?」
「う、うるさいなあ! その話はもういいでしょ!」
「分かった分かった。でも、これだけは聞かせて」
クスクスと笑みを浮かべてから、ラプラスは不意に暗闇から僕を覗き込む。
「過去のいざこざを抜きにしても、始君はどうしてそこまで彼女を庇うの? 『システム』が社会に害をもたらす存在とまで断定したのに」
「だからこそだよ。『システム』に勝手に存在意義を判断されて、まだ何もしてない人間が抹殺されるなんて見過ごせない」
「でも、それはみんなが気づいていないだけで日常的に行われていることなんだよ? 君は『天使』だからたまたま『歌姫』を倒せてしまったけど、本来なら不穏分子は私の予知を元に隠密に排除される。それがこの世界の当たり前の仕組みなの」
僕は、彼女の顔を静かに見つめた。