消女ラプラス
まあそれでも、今日は『彼女』と初めて話せたのだから案外世の中捨てたもんじゃない。
『魔女』だからって僕は人生を諦めていなかった。
生まれつきハンディキャップを背負っている人は大勢いる。僕の場合、それがたまたまこの特異体質だっただけだ。
諦めずに前向きに生きていれば、いつか神様だって振り向いてくれるはず――
【ピコンッ】
すると、『神様』からお告げが来た。
僕は反射的にポケットから『ライプラリ』を取り出し夢中で起動する。
この携帯端末型装置はあらゆる情報――そう、未来さえ閲覧できる。
だからその意味を込めて『ラプラス』と『ライブラリ』をもじりって『ライプラリ』と名付けられた。
この携帯端末型の装置を通せば誰でも『神様』と繋がり、尋ねることが出来る。
ケンカした友人と仲直りする方法も。自分に向いている職業も。……好きな女の子に告白して成功する確率も。
長方形の液晶パネルをタッチすると画面が明るくなり、中央にライトグリーンのツインテールをした少女が幾何学模様のエフェクトと共に出現してニッコリと笑う。
「ライプラリへようこそ、ご主人様。今日はどんな未来をお探しですか?」
『ライプラリ』に標準搭載されているナビゲーションメイド『メイ』。
いかにも若者受けしそうな露出の多い青のコスチュームと、文字通り人間離れした精巧な顔立ち。
見た目は完全無欠な美少女……なのだが、お節介な上にデリカシー皆無なので(所詮AIということだ)僕は嫌いだった。
「今届いたお告げ、見せてくれ」
「あ、あの恋愛相談の件ですね! ご主人様もそういう年頃ですもんね! メイも混ぜて下さいよ~!」
「何でお前が知ってるんだよ」
「ご主人様の性事情……いえ諸事情を知っておくのはメイの大事な役割ですから」
彼女はその青い目を☆マークに輝かせる。
「恋バナみたいなノリやめろよ。大事な相談なんだから」
「ちぇっ……面白そうなのに」
途端、掌返しで舌打ちしながらメッセージボックスを適当に掻きまわす。
該当するメッセージを呼び出すと、メイは『後で私にも結果を教えて下さいね。さもなくば学校のアドレス全部にばら撒いちゃいますから☆』と恐ろしい脅迫を残して消えた。
彼女の妄言を綺麗に忘れて、ゆっくりと箱型のメッセージボックスをタッチする。
箱が勢いよく展開され、中から『神様』への相談内容とそれに対するお告げが書かれたテキストメッセージが飛び出してくる。
『予測申請:二千三十一年七月二日、16:00に学校の屋上で時雨鏡花に告白した場合の成功確率』
対する『神様』からのお告げは酷薄なものだった。
「成功確率……0%。警告:更なる因果率低下の恐れ有。行為の中止を推奨」
僕は一瞬だけ顔を硬直させ……ふと、口元から笑みをこぼした。
勉強も人間関係も何もかも上手くいかなくて。
挙句の果てに神様にまでこんなことを言われて。
それでも、どうして僕は笑っていられるのだろう。
決まっている。最初から分かっていたことだから。
僕は明日、時雨鏡花(しぐれ きょうか)さんにフラれる。
容姿端麗、成績優秀、財閥の令嬢でありながら誰にでも優しく接する理想の美少女……
そんな彼女に、スクールカースト最底辺の自分が惚れてしまったのは愚の骨頂だろう。
本当は、『神様』に相談するまでもないことだった。
だけどこうして実際に『お告げ』を突き付けられたことで僕はかえって吹っ切れた。
警告なんて知ったことじゃない。明日、時雨さんに告白してものの見事にフラれてやろう。
それがこの全知全能の『神様』とやらに対する細やかな反逆だ。
「ご主人様~。そろそろ行かないと体育始まっちゃいますよ?」
「え? ……うわっ、すっかり忘れてた!」
僕はライプラリを切ると、慌てて廊下を走り出した。
『魔女』だからって僕は人生を諦めていなかった。
生まれつきハンディキャップを背負っている人は大勢いる。僕の場合、それがたまたまこの特異体質だっただけだ。
諦めずに前向きに生きていれば、いつか神様だって振り向いてくれるはず――
【ピコンッ】
すると、『神様』からお告げが来た。
僕は反射的にポケットから『ライプラリ』を取り出し夢中で起動する。
この携帯端末型装置はあらゆる情報――そう、未来さえ閲覧できる。
だからその意味を込めて『ラプラス』と『ライブラリ』をもじりって『ライプラリ』と名付けられた。
この携帯端末型の装置を通せば誰でも『神様』と繋がり、尋ねることが出来る。
ケンカした友人と仲直りする方法も。自分に向いている職業も。……好きな女の子に告白して成功する確率も。
長方形の液晶パネルをタッチすると画面が明るくなり、中央にライトグリーンのツインテールをした少女が幾何学模様のエフェクトと共に出現してニッコリと笑う。
「ライプラリへようこそ、ご主人様。今日はどんな未来をお探しですか?」
『ライプラリ』に標準搭載されているナビゲーションメイド『メイ』。
いかにも若者受けしそうな露出の多い青のコスチュームと、文字通り人間離れした精巧な顔立ち。
見た目は完全無欠な美少女……なのだが、お節介な上にデリカシー皆無なので(所詮AIということだ)僕は嫌いだった。
「今届いたお告げ、見せてくれ」
「あ、あの恋愛相談の件ですね! ご主人様もそういう年頃ですもんね! メイも混ぜて下さいよ~!」
「何でお前が知ってるんだよ」
「ご主人様の性事情……いえ諸事情を知っておくのはメイの大事な役割ですから」
彼女はその青い目を☆マークに輝かせる。
「恋バナみたいなノリやめろよ。大事な相談なんだから」
「ちぇっ……面白そうなのに」
途端、掌返しで舌打ちしながらメッセージボックスを適当に掻きまわす。
該当するメッセージを呼び出すと、メイは『後で私にも結果を教えて下さいね。さもなくば学校のアドレス全部にばら撒いちゃいますから☆』と恐ろしい脅迫を残して消えた。
彼女の妄言を綺麗に忘れて、ゆっくりと箱型のメッセージボックスをタッチする。
箱が勢いよく展開され、中から『神様』への相談内容とそれに対するお告げが書かれたテキストメッセージが飛び出してくる。
『予測申請:二千三十一年七月二日、16:00に学校の屋上で時雨鏡花に告白した場合の成功確率』
対する『神様』からのお告げは酷薄なものだった。
「成功確率……0%。警告:更なる因果率低下の恐れ有。行為の中止を推奨」
僕は一瞬だけ顔を硬直させ……ふと、口元から笑みをこぼした。
勉強も人間関係も何もかも上手くいかなくて。
挙句の果てに神様にまでこんなことを言われて。
それでも、どうして僕は笑っていられるのだろう。
決まっている。最初から分かっていたことだから。
僕は明日、時雨鏡花(しぐれ きょうか)さんにフラれる。
容姿端麗、成績優秀、財閥の令嬢でありながら誰にでも優しく接する理想の美少女……
そんな彼女に、スクールカースト最底辺の自分が惚れてしまったのは愚の骨頂だろう。
本当は、『神様』に相談するまでもないことだった。
だけどこうして実際に『お告げ』を突き付けられたことで僕はかえって吹っ切れた。
警告なんて知ったことじゃない。明日、時雨さんに告白してものの見事にフラれてやろう。
それがこの全知全能の『神様』とやらに対する細やかな反逆だ。
「ご主人様~。そろそろ行かないと体育始まっちゃいますよ?」
「え? ……うわっ、すっかり忘れてた!」
僕はライプラリを切ると、慌てて廊下を走り出した。