消女ラプラス
ユグド・タワーは市街地より少し小高い丘の上にある。

そこから、街に向かって下る様に舗装された歩道を僕とラプラスは二人で歩いた。

タワー前にあるバスターミナルのバスを使えばすぐにどこでもいけるのだが、メイがあえてこのルートを選んだ理由はすぐ分かった。

「わーっ……! 凄い、街って近くで見るとこんなに色々な建物があるのね!」



丘を下って街に近づくにつれ、ラプラスのテンションが見る見る上がっていく。

ずっと遥か天空から街を見下ろすしかなかったラプラスにとって、確かにこれは新鮮な体験だろう。

加えて、街の施設を一望出来るこのコースはこの後のデートプランを考えるのにも最適だ。

メイはやはり好きにはなれないが、最新鋭のハイテクAIであるという事実は認めざる得ない。

「ねえ始君! 遠くに見えるあの大きな敷地のある建物は何?」

「あれが学校だよ。僕がいつも通っているから知ってるでしょ?」

「始君の学校……あれが……!」

「今更驚くようなものじゃないと思うけど」



しかし聞いていないのか、ラプラスはつま先立ちになって目に星マークを浮かべている。

「ご主人様。ちょっといいですか」



ライプラリからメイが囁いてきたので、僕は仕方なくこっそり耳に近づける。

「確かに『神様』は予知能力でご主人様をずっと『視て』いましたが、『見て』いたわけではありません」

「え? どういうこと?」

「要するに能力を通して対象を観察するのと、実際に肉眼で物体を見るのは別物ということです」



なるほど、だからこんなにラプラスは学校を見て興奮しているのか。

例えるならどんなに宇宙を鮮明に想像しても、実際に宇宙に行かないと『体験』は得られないのと同じことだ。

そして、ラプラスはどうやらその『体験』をしてみたくなってしまったらしい。

「始君、私学校に行きたい!」



振り向いて無理難題を言い出したラプラスに僕は困惑する。

「行きたいって、ただ行きたいって意味じゃないよね?」

「もちろん違うよ! ちゃんと制服を着て、始君と一緒に授業を受けてみたいの!」

「そんな無茶な……」

「ダメ? 始君は今日、私の願いなら何でも叶えてくれるんじゃないの?」



首を傾げる彼女に、僕は頭を抱える。

確かに今日はラプラスにとってとても大切な日だ。叶えられることは全て叶えてやりたい。

――だけど。



突然、同じ学校に銀髪碧眼の転校生が来る展開を起こすなんてことは流石に――
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