消女ラプラス
ゆっくりと目を開けると、ぼやけた視界に人影が映った。
瞬きして、すぐにそれが銀髪碧眼の少女であることに気付く。
「ラプラス……どうして……」
ライプラリで時間を確認すると、すでに時間は十六時を回っていた。
昨日の訓練の疲労がまだ残っていたのか、終業の時間まで眠ってしまったらしい。明日からのあだ名は『サボり魔女』だな。
ラプラスは僕が起きるまで待っていたらしく、ニッコリ微笑んで手を差し伸べた。
「始君。そろそろ帰らなきゃ。生徒は学校が終わったら下校するものなんでしょ?」
彼女に手を引かれて立ち上がり、ハッとして問いかける。
「もしかしてずっとここにいたのか……?」
「まさか。始君の言う通り、六時間目までちゃんと学校を満喫してから来たよ」
それを聞いて、僕は胸を撫でおろす。
もし僕のせいでラプラスの貴重な半日が潰れたのだとしたら、僕は一生後悔しただろう。
「あのね、五時間目に体育があったの! 体操着の手配までは流石にしてなかったけど、親切な女子生徒が予備を貸してくれてバレーボールをしたのよ! ボールを頭にぶつけてタンコブが出来たけどとても楽しかった!」
「タンコブって……世界最高機密の頭脳に何かあったらどうするんだよ」
見た感じもう腫れてないので大丈夫そうだが、もし何かあったら僕の管理責任問題になる。
そんな心配をよそにニコニコと笑顔を浮かべるラプラスを見て、僕は口を開きかけて……それから首をゆっくり振った。
「どうしたの、始君? 今何か言おうとしたでしょ?」
「いや……何でもない。強いて言うならラプラスはやっぱり普通の女の子なんだなって」
てっきり彼女は言い返してくると思ったが、意外にも僕を見つめてゆっくりと告げた。
「そうだね、ここに来てやっと分かった。……私なんてただの、ちょっと世間知らずなどこにでもいる女の子だったよ」
「……やっと認めたんだね」
ラプラスは立ち上がり、黄昏の茜に染まった空を見上げて手をかざす。
「うん、認めざる得ない。この学校に来て短い間だったけど色んな人と会った。たくさんの人と話した。そして今日初めて、ようやく知ることが出来た」
彼女がふり向き、逆光で暗く染まったその顔に切ない笑顔を浮かんだ。
「この世界に、神様なんてどこにもいないってことに」
翳っていても、彼女の瞳が潤んでいることが僕には分かった。
決して彼女は神様がいないから悲しんでいるわけじゃない。自分が神様の代わりになれないから嘆いているわけでもない。
彼女は改めて恐怖したんだ。神様がいない世界で神様を演じなくはならない自分の運命に。
そしてその恐怖を僕だけが理解してあげられる。
僕だけが彼女を守ってやれる。
「行こう」
僕はラプラスの震える肩に手を置いた。
彼女が僕にしてくれたこと、僕にしでかしたことなど今は関係ない。
そんなことより、今大切なのは彼女の底なしの恐怖を取り除く努力をすること。
そうするには……やはり、ラプラスが『正しく』この世界から消える他ない。
「どこに行くの? あの時間にはまだ……」
少し不安そうに尋ねるラプラスに、僕は振り返って告げた。
「忘れたの? まだ行かなきゃならない場所……一番大切なイベントが残っているでしょ?」
瞬きして、すぐにそれが銀髪碧眼の少女であることに気付く。
「ラプラス……どうして……」
ライプラリで時間を確認すると、すでに時間は十六時を回っていた。
昨日の訓練の疲労がまだ残っていたのか、終業の時間まで眠ってしまったらしい。明日からのあだ名は『サボり魔女』だな。
ラプラスは僕が起きるまで待っていたらしく、ニッコリ微笑んで手を差し伸べた。
「始君。そろそろ帰らなきゃ。生徒は学校が終わったら下校するものなんでしょ?」
彼女に手を引かれて立ち上がり、ハッとして問いかける。
「もしかしてずっとここにいたのか……?」
「まさか。始君の言う通り、六時間目までちゃんと学校を満喫してから来たよ」
それを聞いて、僕は胸を撫でおろす。
もし僕のせいでラプラスの貴重な半日が潰れたのだとしたら、僕は一生後悔しただろう。
「あのね、五時間目に体育があったの! 体操着の手配までは流石にしてなかったけど、親切な女子生徒が予備を貸してくれてバレーボールをしたのよ! ボールを頭にぶつけてタンコブが出来たけどとても楽しかった!」
「タンコブって……世界最高機密の頭脳に何かあったらどうするんだよ」
見た感じもう腫れてないので大丈夫そうだが、もし何かあったら僕の管理責任問題になる。
そんな心配をよそにニコニコと笑顔を浮かべるラプラスを見て、僕は口を開きかけて……それから首をゆっくり振った。
「どうしたの、始君? 今何か言おうとしたでしょ?」
「いや……何でもない。強いて言うならラプラスはやっぱり普通の女の子なんだなって」
てっきり彼女は言い返してくると思ったが、意外にも僕を見つめてゆっくりと告げた。
「そうだね、ここに来てやっと分かった。……私なんてただの、ちょっと世間知らずなどこにでもいる女の子だったよ」
「……やっと認めたんだね」
ラプラスは立ち上がり、黄昏の茜に染まった空を見上げて手をかざす。
「うん、認めざる得ない。この学校に来て短い間だったけど色んな人と会った。たくさんの人と話した。そして今日初めて、ようやく知ることが出来た」
彼女がふり向き、逆光で暗く染まったその顔に切ない笑顔を浮かんだ。
「この世界に、神様なんてどこにもいないってことに」
翳っていても、彼女の瞳が潤んでいることが僕には分かった。
決して彼女は神様がいないから悲しんでいるわけじゃない。自分が神様の代わりになれないから嘆いているわけでもない。
彼女は改めて恐怖したんだ。神様がいない世界で神様を演じなくはならない自分の運命に。
そしてその恐怖を僕だけが理解してあげられる。
僕だけが彼女を守ってやれる。
「行こう」
僕はラプラスの震える肩に手を置いた。
彼女が僕にしてくれたこと、僕にしでかしたことなど今は関係ない。
そんなことより、今大切なのは彼女の底なしの恐怖を取り除く努力をすること。
そうするには……やはり、ラプラスが『正しく』この世界から消える他ない。
「どこに行くの? あの時間にはまだ……」
少し不安そうに尋ねるラプラスに、僕は振り返って告げた。
「忘れたの? まだ行かなきゃならない場所……一番大切なイベントが残っているでしょ?」