消女ラプラス
「お待たせしました。当店名物クリームあんみつパフェでございま――」

「いただきますッッッ!」



カフェ店員の言葉を待たずして、ラプラスはスプーンをパフェに突っ込んだ。

オシャレな内装の店内で彼女は矢継ぎ早にパフェを口に運び、恍惚の表情を浮かべる。

そんな彼女とパフェをゆっくりと食べる僕を交互に見て、店員は微笑ましそうな顔をしながら立ち去った。下校途中の高校生カップル、とでも思われているのだろう。

そのままラプラスはクリームあんみつパフェを僅か三分足らずで食べ終えた後、思い出した様にナプキンで上品に口元を拭いながら満面の笑みで言った。

「美味しいッ! ご馳走様ッ!」

「感想言うの遅過ぎだよ」



僕が突っ込むと、ラプラスは名残惜しそうに空になった容器をつつきながら言う。

「だってあまりに美味し過ぎて言葉が出なかったんだもん……ああ……生きてて良かった……」

「なんならもう一つ頼む? 五月雨に普通の女子高生じゃ一生かけても使いきれないくらいのお小遣いをもらってたよね?」



僕が提案するとラプラスは何やら間うめき声を上げて考えた後……吹っ切れた表情で首を振った。

「ううん。お代わりはやめておく」

「いいの? あんなに食べたがっていたのに」



彼女はどこか切なそうな表情を浮かべて答える。

「こういうのはね、最初の一口目が一番美味しいじゃん? それが大好物だったらなおさら」

「うんそうだね」

「だからその瞬間の記憶を鮮明に焼き付けておく為にも、薄れさせない為にも、お代わりはしないでおく。だってもしかしたら私は半年後にはもう……」



最後まで言わず、ラプラスは窓の外を見た。

時刻は十八時。

十二月の空はもうすっかり夜の帳がかかっていて、タイムリミットが迫っていることを告げてくる。

お世辞にも今日一日は普通のデートとは言えなかった。

そもそも学校にいきなり転校する時点でぶっ飛んだ展開だったし、僕自身は彼女と学校でほとんど何もしていない。

それでも、こうして最後はちゃんと彼女の念願を叶えられただけでも良かったと思う。

普通のデートなんて元から期待しちゃいない。



そんなものは、『普通の日常に正しく消えることが出来た後』だっていくらでも出来る。
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