消女ラプラス
「ああ分かった、すぐに歌姫を手配する。君たちは巻き添えになる前に引き上げろ」



警備員からの電話を切ると、俺はユグド・タワーから眼下を見下ろして物思いに耽る。

この俺、五月雨終という男は失敗をしたことなど一度もない。

夕立始の様な『イレギュラー』に想定外な動きをされたことはあれど、最終的には必ず自分の望む方向へ未来を捻じ曲げてきた。

そんな俺にとって夕立始の裏切りと時雨鏡花の襲撃という展開は、この上なく甘美なるハプニング。

言わば、会議やら雑務などといった退屈な日常に飽きた俺に対するご褒美のようなものだ。

改めて状況を整理してみる。

ラプ達は仮に『神様陣営』、対する時雨鏡花たちは神に仇なす天使……『堕天使陣営』、そして俺を含む委員会側は『代行者陣営』と名付けよう。

俺の役割はこの『神様陣営』『堕天使陣営』『代行者陣営』の三つ巴の戦いを迅速かつ穏便に対処すること。

大前提として、俺がこの戦いの指揮を任されたのは俺が『天使』だからだ。

もし普通の人間であれば、すぐにラプラスに思考を予知され勝負にもならない。だからこそ委員会は、この騒乱の責任を追及することなく俺に協力を求めてきたのだ。

まあそんなことはどうでもいい。ここで大切なのは、それぞれの陣営の勝利条件だ。

『神様陣営』の場合、目的は純粋に『代行者陣営』からの解放。よって彼らは居場所を見失わない限りは放置して問題ない。

対する時雨鏡花率いる『堕天使陣営』の目的は『神様陣営』のラプラスの殺害だ。

ここで重要なのは、夕立始が『天使』は『天使』にしか殺せないと認識していること。

必然的に彼は同じ『天使』である時雨鏡花本人が、『神様陣営』まで出向いて攻撃を仕掛けてくること予期し、その前に逃げ切ろうとするだろう。

ならば俺は彼らを少し泳がせておく。

時雨鏡花は今回の作戦に向けて何らかの準備をしているはず。易々と『神様陣営』を逃す真似はしないはずだ。

俺はその動向を見守り、ここぞというタイミングで歌姫を投入。

そして二つの陣営が疲弊したところで俺が直々に出向き、夕立始とラプラス両名を確保して時雨鏡花を切り捨てる……典型的な漁夫の利作戦だ。

ここまでの思考を三十秒ほどでまとめた俺は、うっすらと暗がりで笑みを浮かべた。



さあ、今回の『天使』達は俺をどこまで楽しませてくれるかな?
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