消女ラプラス
「始君。『ソロモン・リング』はちゃんと持ってるよね?」



ラプラスに確認され、僕はポケットから黄金の指輪を取り出す。

ラプラスとの外出の際、万が一の護身の為に『ソロモン・リング』を持ち出して良いことは予め五月雨に確認を取っていた。

とは言え、僕はこれをなるべく使わずに目的を達成するつもりだった。僕の今の力量ではこの武器はあまりに強力で、それ故に頼りなさ過ぎる。

「もちろん持ってるけど」

「ちょっと貸して」



ラプラスは指輪を受け取ると、自分の指にはめて目を閉じた。

途端、青い光が彼女の細い体を球状に包み込む。

数十秒後、彼女は目を開けると指輪をこちらに返して言った。

「これで大丈夫よ」

「大丈夫って何をしたの?」

「指輪をアップグレードしたの。私が遠隔操作で制御出来るように」



そう言って、彼女は僕を真剣な眼差しで見つめた。

「始君、貴方ははっきり言って弱い。『指輪使い』として戦うにはあまりにも経験が浅すぎる」

「そんなことは言われなくても分かってるよ。だからなるべくそれは使いたく
な――」

「いいえ、終はそんなに甘くない。きっとこの先指輪の力が必要になる。だから……私が貴方の『頭脳』になる」

「僕の頭脳……?」

「私がリングを通じて始君の体とリンク出来るようにした。私は予知能力と始君の体を使って敵の攻撃をかわしながら戦える。だから、始君は『リング』との接続を意識することだけを考えればいい」

「要は僕はラプラスの操り人形……ってことか」



僕が少し不安そうに言うと、すかさず彼女は反撃する。

「なら自力で戦えるの? まだ『リング』を使って剣の一本も生成出来ないのに」

「あーもう分かったよ! 僕はこの体を預ける。君のことを信じているから」



ラプラスはその言葉に、コクンと頷くだけで答えた。

彼女からしても、一人の人間の命を預かるなんて大きなプレッシャーのはずだ。

もっと僕が強ければ……自力で戦えるだけの力を持っていれば。

そんな考えを振り切って、僕は目の前のことに集中する。

時計塔から離れて十分。未だ敵襲の気配はないが、五月雨と時雨さんが僕たちを大人しく逃がすはずがない。



ここからどう動くべきか――
< 66 / 100 >

この作品をシェア

pagetop