消女ラプラス
森を弾丸の如く飛び出した瞬間……私は空中で固い何かに衝突され、時計台近くの地面に思いきり叩きつけられた。

突然のことに動揺した私は咳き込みながら立ち上がる。

土煙が晴れていくと同時に現れたその生き物は……歌姫と呼ばれる忌まわしき兵器。

「思ったより早い到着ね」



私が『リング』を掲げると、その手から青い光を纏った鋭い鎌が現れた。

研ぎ澄まされカーブしたその刃はまるで死神の武器の様で、その青く冷たい光はまるで私の心を映したかの様。

長年の鍛錬で戦いを共にした、私の唯一無二の相棒だ。

「一番早く死ねることを光栄に思いなさい!」



私は鎌を振りかぶると、歌姫目掛けて一直線に突進する。

歌姫が私に向かって鋼鉄の触手を向けるのが見えた。無駄なことだ。

『天使』である私に『システム』の統制下にある歌姫の攻撃は当たらない。

向こうは完全に私の動きを見切っているつもりだろうけど、それを逆手にとって一撃で楽にしてあげる。

触手は蛇の様に左右から迫ってくる。私はそれを跳躍して回避し……空中の私を追って曲がってきた触手を見て思わず目を見開いた。

間一髪で回転切りを繰り出し、左右から迫ってきた触手を同時に弾いて着地する。

今のは何……? まるで私が跳躍することが最初から読まれていた様な……

いや、そんなはずはない。今のきっと偶然の産物よ、と私は再び歌姫に切りかかる。

今度は直線的な動きではなく、素早く右から回り込んで叩き切る必殺の一撃。

歌姫はこちらを見ることなくただ背中の触手だけ蠢かせている。きっと想定になかった動きをされてエラーを起こしているのね……チャンスだ!



そして鎌を振りかざした次の瞬間、背中から鋭く伸びた触手が完全に私の攻撃を受け流した。



「そんな――」



私が叫ぶと同時に、容赦なく無数の触手がこちらに射出される。

無防備な肩やわき腹を抉られた。更に横なぎの一撃を頭部に受け、私は成すすべもなく飛ばされる。

あれ……私、どうして雑魚一匹にここまで完封されているの……?

血で赤く染まった視界が霞む。手に持っていた鎌が雲散霧消し、私はヨロヨロと立ち上がって後ずさりする。

歌姫は、そんな私を慈しむかの様な綺麗な瞳で見下ろしていた。

そんな今から死にゆく者を見るような目で見ないでよ……私にはまだ……私にはまだやらなきゃいけないことが残っているのに……!

そんな私へ、聖女姿の怪物は懺悔を求めるかの様に歌声を響かせる。



次々と弾丸の様に鋭利な触手の先端が飛びて、辺りは濃紺の土煙で覆い尽くされた。
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