消女ラプラス
「そろそろディナーもお開きの時間かな」



俺は眼下遥か遠くの商店街で繰り広げられている戦いを見下ろしながら呟いた。

もう少し粘ってくれると思っていたが、やはり夕立始には荷が重かったようだ。

即席の武器らしきものは生成出来たとはいえ、一方的に時雨鏡花に押されている。

その彼女も歌姫との戦いでダメージを負っているから『ソロモン・リング』が解除されれば力尽きるだろう。だが、その前にラプラス達を殺されてしまっては意味がない。

そろそろ、この辺が潮時か。あまり遊び過ぎて委員会に咎められるのも面倒だしな。

唯一気がかりなのは、歌姫が時雨鏡花を仕留めそこなったこと。

先程、時雨鏡花が死んだことを確信した瞬間に俺は視点を『神様陣営』に移してしまっていた。

結果的には『神様陣営』にぶつけることが出来て良かったとは言え、なぜ彼女がまだ生きているのかは謎だ。

「DIVA-1364号機。ただちに時雨鏡花を追撃しろ。その後夕立始とラプラスを確保して帰投せよ」



俺は先程、時雨鏡花を攻撃した歌姫の個体に無線を繋ぐ。だがなぜか応答がない。

「DIVA-1364? 聞こえるか、応答しろ」



指示を繰り返すも、聞こえてくるのは耳障りなノイズだけ。

まさか、交信の周波数帯域を意図的に変更された? 一体誰に?

その時、俺はふと視線を商店街から時計台のある丘へと移した。

視線の先には、商店街へ向かって降下していく複数の歌姫たちが見える。その全ては、俺が指示を出したものではない所属不明の個体たちだ。

「どういうことだ……?」



俺は数秒ほど沈思黙考し、そしてとある答えに達した時――

俺は、満面の笑みを浮かべて眼下を見下ろしながら拍手をした。

もちろんこれは敵に対する賛辞だ……認めてやろう。

『堕天使勢力』よ、お前たちはよく頑張ったと。

この作戦は恐らく時雨鏡花の発案によるものだろう。

彼女もまた『天使』の一人であると同時に夕立始同様、この俺の予想を超えて楽しませてくれる『超越者』の一人だったのだ。

「だが――『天使』と言えど、所詮お前たちは人間に過ぎない」



俺はそう呟いて足を踏み出すと――

ユグド・タワーのガラスを突き破り、高度千メートルを超える突き刺す様な冷気の中に飛び出した。

「アハハッ……! 自分から下界に行きたいと思ったのは何年ぶりかな……⁉」



激しい風にあおられ、遥か彼方の地上へと仰向けに落下しつつ俺は高笑いする。

一つ残念なことがあるとすれば――それは、この上なく素晴らしいこのゲームがもうすぐ終焉を迎えてしまうこと。



それだけだった。
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