消女ラプラス
第十四章 超えていく力
追っ手の歌姫との戦いは熾烈を極めた。

相手は『システム』統制型の歌姫のおかげで攻撃が当たりにくく、反撃するのは容易い。だが、僕はあえてプラズマブレードの生成は試みなかった。

その理由は二つ。

一つは戦闘中、作ったこともないプラズマブレード生成出来るか試すのがリスキーであること。

二つ目は、生成出来たところで結局使いこなせない可能性が高いことだ。なら、今まで通り身体能力と小細工を駆使して戦った方がまだ安全だ。

正面突破は難しいと踏み、僕はわざと歌姫を引きつけた上で工場の窓を突き破って中へ飛び込んだ。

ラプラスを狙われたらすぐ戻るつもりだったが、歌姫たちは問題なく僕の後を追って工場へ入ってくる。

そこは使われなくなって間もない、アパレル用品の仕分けをするライン工場だった。

縦に並んだいくつものラインと、その外周を品物を運ぶ為のレールが囲んでいる。

更に隣のエリアには荷物を運ぶためのコンテナが並んでいて、まだ新しい為火災対策用のシャッターやスプリンクラーもそのままだ。

僕は次々とラインを飛び移り、レールの上に飛び乗って駆け抜けた。

歌姫が後方から追ってきたところで進路を変え、コンテナエリアまで移動してそのうちの一つを持ち上げる。

う……重い。『リング』の力を借りているのに腕が軋み、足がガクガクと震える。

それでも僕は渾身の力で向きを変えると、考えなしにコンテナエリアへと突っ込んできた歌姫の一体にそれを思いきり投げつけた。

グシャ! と肉が砕けるおぞましい音がして歌姫とコンテナが落下していった。

その間に三体の歌姫がエリアに着地したが、体制を整える間を与えず僕はコンテナの山を歌姫目掛けて押し倒した。

激しい金属音を立てて山が崩れ、肉と骨が裂ける音がする。

回り込んで確認すると、コンテナの隙間から触手が飛んできて危うく首が飛びそうになった。

生き残った歌姫はコンテナの隙間から這い出ると、悲し気な歌声を上げながら僕の前に立ちはだかる。

僕は空中に床を作って歌姫の上を飛び越えると、伸びてくる触手を避けながら再びラインエリアへ向かった。

自立思考が出来ない故に、歌姫は何も考えず僕の後を付いてくる。

僕はそのままラインエリアのレールの上に立つと、歌姫も間髪入れずレールの上に飛び乗った。僕に先手を取らせてはいけないと一応は学習したみたいだ。

だけど、それでもまだ遅すぎる。

「ねえ知ってる? このレールは人間は立ち入り禁止なんだぞ」



僕の挑発に、歌姫は相変わらず悲哀に満ちた歌声で答える。

「ああそうか、そう言えばお前は人間じゃなかったね」



更にそう挑発し、注意を引いたところで僕はレールのフェンス越しに赤い起動ボタンを叩いた。

ガクン、と重々しい音を立ててレールが動き始め、僕と歌姫が逆時計回りに移動していく。

レールの稼働を予期していなかった歌姫はバランスを崩して倒れ……次の瞬間、レールの連結部分に全身を叩きつけられた。

「ヒュオオオオ!」



歌姫が苦痛の叫び声を上げる間にもレールは止まらず、体は連結部分の隙間に挟まれ巻き込まれていく。

そして遂に全身が見えなくなり……連結部分の反対側から流れてきた時には、歌姫はボロボロの肉塊になっていた。

中々にスプラッターな殺し方をしてしまい吐き気を覚えるが、自分も巻き込まれては本末転倒なので慌てて飛び降りる。

例え化け物が相手でも生き物を殺すのはやっぱり嫌だな。この工場だけでも四体
も――


ん……四体⁉


しまった、と僕は慌ててラインを飛び越えて窓を破り外に飛び出す。

見ると、五体目の歌姫が壁際に追い詰められたラプラスに迫っているところだった。

ラプラスは精いっぱい石を歌姫の顔面に目掛けて投げつけるが、容易く弾かれている。

僕は慌てて武器になりそうなものを探したが、工場の外には見事に何もなかった。このままでは間に合わない――



「おいおい始君。ダメじゃないか、ちゃんと俺がいない間は神様のお守りをしてくれないと」
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