消女ラプラス
あの夜、あの時、あの場所で僕自身が告げた言の葉。
そうだ、僕はまだ彼女との約束を果たしていない。
僕は彼女に『正しく消える』ことを約束した。
そして、ここで五月雨に殺されることはこの世で一番間違った消え方だ。それを他ならぬ僕が忘れてどうする?
バチバチッ、と『リング』を通じて全身から激しい青の雷電が迸り、プラズマブレードがサファイアの様な輝きを放つ。
五月雨はそんな僕を見ても表情一つ変えなかった。
「始君……もう今回ばかりは無理だよ。君は何度も俺の思考を超越してきた。だけどね、この世界は『覚醒』なんて甘い展開で逆転出来る程安っぽく出来てないんだ」
その言葉は決して挑発的ではなく、むしろ僕に対する憐みと純粋な現実だった。
「アリアも最後、ラプラスへの熱い思いをトリガーに君と同じ様な覚醒状態になった。でも結局、あっさりと俺に切り捨てられた……そういう意味では、本物の運命の『神様』なんてどこにもいないんだよ」
「ああ、僕も『神様』なんか信じちゃいない。宗教上の神様も信じてないし、ラプラスも『神様』なんかじゃない」
稲光が工場内を照らし出す中、僕はプラズマブレードを五月雨に向かって真っすぐ構えた。
「だから僕は僕の力でお前に勝つ! 天使やら神様なんてクソ食らえだ!」
「……始君。君は本当に素晴らしい少年だった」
五月雨もブレードを構え、その全身が僕と同等かそれ以上の光に包まれる。
それはきっと、死にゆく僕への最大の敬意のつもりなのだろう。
「ありがとう……そしてさようなら」
短い一言と共に、五月雨の残像がこちらへ向かって移動してくる。
やはりとてつもなく早い。これほどのスピードを出せるなら、あの歌姫の大群を片付けるのも簡単だったのだろう。
だけど、五月雨は気づいていない。
僕は彼ほどのスピードは出せないけど――『リング』の覚醒によって肉体だけでなく思考もまた加速しているということを。
そして僕は五月雨と言葉を交わす間、必死に彼を倒す策を考え続けていた。最後まで諦めないその一心で。
遂に僕が辿り着いた答えはとてもシンプルで……それ故に、五月雨には決して想像出来ないものだ。
僕は彼をギリギリまで引きつけると、深い青の刃を構える素振りを見せ――次の瞬間、右手を上げて天井にスパークを打ち上げた。
支柱に衝突したその電撃は小さな花火の様に爆発を起こし、発生した煙がセンサー付近を漂い――
そしてスプリンクラーが稼働して、真下にいた五月雨の全身を包みこんだ。
「な……!」
水を浴びた五月雨の体からバチバチと稲光が消え、プラズマブレードが雲散霧消する。
彼は僕の前に立ち止まり、空っぽになった自分の手を見てから濡れた顔を上げ――心の底から嬉しそうに笑った。
「――やるね」
「うおおおおっ!」
僕は雄たけびと共に、手にしたブレードで五月雨の無防備な右胸を貫いた。
そうだ、僕はまだ彼女との約束を果たしていない。
僕は彼女に『正しく消える』ことを約束した。
そして、ここで五月雨に殺されることはこの世で一番間違った消え方だ。それを他ならぬ僕が忘れてどうする?
バチバチッ、と『リング』を通じて全身から激しい青の雷電が迸り、プラズマブレードがサファイアの様な輝きを放つ。
五月雨はそんな僕を見ても表情一つ変えなかった。
「始君……もう今回ばかりは無理だよ。君は何度も俺の思考を超越してきた。だけどね、この世界は『覚醒』なんて甘い展開で逆転出来る程安っぽく出来てないんだ」
その言葉は決して挑発的ではなく、むしろ僕に対する憐みと純粋な現実だった。
「アリアも最後、ラプラスへの熱い思いをトリガーに君と同じ様な覚醒状態になった。でも結局、あっさりと俺に切り捨てられた……そういう意味では、本物の運命の『神様』なんてどこにもいないんだよ」
「ああ、僕も『神様』なんか信じちゃいない。宗教上の神様も信じてないし、ラプラスも『神様』なんかじゃない」
稲光が工場内を照らし出す中、僕はプラズマブレードを五月雨に向かって真っすぐ構えた。
「だから僕は僕の力でお前に勝つ! 天使やら神様なんてクソ食らえだ!」
「……始君。君は本当に素晴らしい少年だった」
五月雨もブレードを構え、その全身が僕と同等かそれ以上の光に包まれる。
それはきっと、死にゆく僕への最大の敬意のつもりなのだろう。
「ありがとう……そしてさようなら」
短い一言と共に、五月雨の残像がこちらへ向かって移動してくる。
やはりとてつもなく早い。これほどのスピードを出せるなら、あの歌姫の大群を片付けるのも簡単だったのだろう。
だけど、五月雨は気づいていない。
僕は彼ほどのスピードは出せないけど――『リング』の覚醒によって肉体だけでなく思考もまた加速しているということを。
そして僕は五月雨と言葉を交わす間、必死に彼を倒す策を考え続けていた。最後まで諦めないその一心で。
遂に僕が辿り着いた答えはとてもシンプルで……それ故に、五月雨には決して想像出来ないものだ。
僕は彼をギリギリまで引きつけると、深い青の刃を構える素振りを見せ――次の瞬間、右手を上げて天井にスパークを打ち上げた。
支柱に衝突したその電撃は小さな花火の様に爆発を起こし、発生した煙がセンサー付近を漂い――
そしてスプリンクラーが稼働して、真下にいた五月雨の全身を包みこんだ。
「な……!」
水を浴びた五月雨の体からバチバチと稲光が消え、プラズマブレードが雲散霧消する。
彼は僕の前に立ち止まり、空っぽになった自分の手を見てから濡れた顔を上げ――心の底から嬉しそうに笑った。
「――やるね」
「うおおおおっ!」
僕は雄たけびと共に、手にしたブレードで五月雨の無防備な右胸を貫いた。